ポストが赤であるように




夜、なんだかお腹がすいて、ふらっとコンビニに寄る。
なんてことはない、日常の中の些細な光景。
明太子がなかったから、焼きたらこのおにぎりを持ってレジに向かう。


「あ」


そこにいたのは、当たり前のような顔をしてレジを打っている雨生龍之介だった。


「バイト先、変えたんだ」


レジのカウンターにおにぎりを置き、同時進行で鞄から財布を取り出しながらその見知った顔に声をかける。
わたしの記憶が確かであれば、彼はついこの間まで一駅先のレンタルビデオ店でアルバイトをしていたはずだ。
身につけている青いエプロンにも皺は無く、まだ降ろしたてのパリパリといった感じだし。


「ん?……ああ」


気だるげにおにぎりのバーコードを読むと、これまた気だるげに少し腰をかがめてカウンター下の袋を引っ張り出しながら、雨生の唇は申し訳程度に開いた。
それはわたしの問いかけに対する答えとも、また、喋りかけてきた客がわたしだったことにたった今気がついた反応ともとれる。
眠たいのだろうか。
まさか、人を殺してきたその足でバイトしてたりして。


「……世の中不思議ね、殺人鬼がせっせとレジ打ちしてるなんて」


“防犯カメラ稼働中”。
目に付く位置に自信満々といわんばかりに貼られている張り紙を見て、上を見上げる。
あちらこちらで、防犯カメラが目を見開いて店内を監視していた。
その姿に、少しだけ呆れる。
もっとも監視すべき罪人は、こんなにも無害そうな顔をしてレジ打ちをしてるわよ。

客が他にいないからなのか、雨生は隠す素振りも見せず大きなあくびをした。


「っふああ、……105円になりまーす」


間延びした声で、雨生はおにぎりの値段を告げた。
細かいことを言えば、時間を効率よく使うために先に値段を告げてから袋詰めするのがセオリーかと思うが、どうせ店はガラガラだしそもそもわたしが気にするようなことではないか。

わたしは財布から200円を取り出してカウンターに置いた。


「えー……5円玉ないのかよ」
「探せばあるだろうけど、面倒くさいし」
「こっちが面倒くさいっての……まあいいや、200円お預かりいたしまーす」


文句を垂れながら雨生は200円をレジにしまうと、お釣りの95円とレシートをわたしに手渡した。
少しだけ、手が触れ合う。
それはお金なのか血なのか、ほんのり鉄のような臭いがした。


「なあ」


夜食を手に入れるという目的を無事果たし、店を出て行こうとしたわたしの背中に、雨生の声が掛かる。
自動ドアのセンサーに触れる寸前で、わたしは振り返った。


「帰り、気ーつけて帰れよー、物騒だから」


壁にかけられた時計は、12時46分を指していた。
なるほど、確かに女が一人ふらふらと出歩くには少しばかり外は暗い。
ついでにこの街には連続殺人犯が潜んでいるというのだから尚更か。

なんて考えて、少し笑った。


「何言ってんのよ、一番物騒な人間が」


ひらひらと手を振って自動ドアをくぐり外へ出ると、冷たい風が足元を通り抜けていった。

夜の街は真っ暗で、コンビニの明かりが漏れるその一歩先はもうほとんど前すら見えないくらい。
だけどわたしには、何も恐いものなんてないような気がした。

世間を脅かしている殺人鬼がのん気にエプロンをつけてレジを打ち、気をつけろ、なんて言うものだから。




ポストが赤であるように
(あんなに自然にいられると、ねぇ?)
(12.4.14)
――――――――
まあ、世の中そんなもんですよね
そして誰が得をするんだこの話は(^p^)
キュンポイントがおにぎり買いにコンビニ行ったっきり戻ってこない


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