蛇に愛された蛙




“雑種”、それがいわば彼の口癖であり、またわたしを呼ぶときの名称でもあった。


「雑種、我の寝具に毛の一本でも散らしてみろ……死ぬぞ」


しかしまあ、それがベッドに横たわる女性に向かって言う言葉であろうか。
変な目で見て欲しいわけではないが、この男の言動はいちいち癇に障る。


「何よ……あんたの毛もわたしの毛もそんなに変わんないでしょうが……」
「たわけ雑種、自分を過大評価するだけならまだしも我を愚弄するな」
「はいはい、純血統様はおえらいですもんね」


腕組みをしながら冷めた目でこちらを見下ろすギルガメッシュにはき捨てるようにそう言うと、わたしは肌触りのいい枕に吸い込まれるようにして顔を埋めた。

ギルガメッシュがよくわからない光の壁から出したこのベッドは、たしかに寝心地も外観も素晴らしいものだった。
試しに寝転がってはみたけれど、なるほど、この明らかに身の丈に合っていないだろうという情けない気持ちを“恐れ多い”とでもいうのだろうか。

悔しいけれど、やっぱりこの男の前ではわたしなんて雑種以外の何者でもないのかもしれない。

枕に向かって悔しさを噛み締めていると、後ろで馬鹿にしたように鼻を鳴らす声が聞こえた。


「……何よ」


ギルガメッシュがベッドに腰を下ろしたということが、シーツごしに伝わってくる。


「お前が無様に寝転がっているのを見ていると、雑種は雑種同士そうやって醜悪に繁殖していくのだとまざまざと見せ付けられた気分だ、地を這う犬め……まったくもって哀れの極みよ」


全くこの男は、嫌味でしかものを言えないのか。
徐々に上がってきた怒りのボルテージに、わたしはようやく枕から顔を上げた。


「……!」


すると、すぐ近くにあったギルガメッシュの顔。
鎧をまとっていないしなやかな腕がわたしの顔のすぐ横に突き立てられていた。
かけられた体重によってベッドがその場所だけ少し沈む。
さらさらと流れる金色の髪は、彼のものではないみたい。
細められた赤い瞳に、思わず息を呑んだ。


「な、何よ……」
「喋るな雑種」


蛇に睨まれた蛙が、動けるはずなど無く。
ギルガメッシュの顔が、また拳ひとつ分ほど近づいた。


「丁度我も暇を持て余していてな……光栄に思えよ」


そう言って、ギルガメッシュの手がわたしのシャツのボタンにのびた。
そのまま何の躊躇も違和感もなくひとつめのボタンが外されてしまったものだから、わたしは慌ててその手を払いのけた。


「な、何すんのよ!」
「騒ぐな雑種」
「騒ぐわよ!っていうかいちいち喋るたびに雑種って言うのやめなさいよ」


開きかけた胸元を隠すように襟を手繰り寄せれば、ギルガメッシュはそんなわたしの様子も払いのけられた手も気にすることはなく、ただ赤い目を細めてわたしを見つめた。


「四の五の言わず抱かれておけ。貴様のような 雑 種 が我に抱かれる機会など二度は巡ってはこないのだからな」
「な……っ」


“雑種”という言葉を強調して言ったギルガメッシュの目には、蔑みや嘲笑の色が含まれている気がして、わたしの怒りは頂点に達した。
こんな侮辱、許せない。


「結構よ!」


わたしはそう叫び、ギルガメッシュを押しのけて起き上がった。


「哀れだとか何だとかそんなのは余計なお世話よ!それにあんた人のこと雑種、雑種って言ってお高く留まってるけどね、純血統と交わろうが同じ雑種同士で交わろうが……わたし自身が雑種である限り、生まれてくる子はどのみち雑種でしょう」


だったらたった一匹の純血統なんて、何の意味も無いわよ。

立ち上がり、そう言い切ってからギルガメッシュを見やれば、ほんの僅かその瞳が丸みを帯びたように見えた。
わたしなりに精一杯言い返してやったわ、ざまあみろ。


「……っく」


しかしギルガメッシュはうつむいたかと思ったら、ついに堪えきれないとでもいうように噴出した。


「くく、ふはは!いやお前は雑種にしてはなかなか面白みのある女だ。しかし勘違いするなよ、グラム」


その顔が上がり、赤い瞳と目が合って、ぞくりと背筋が震えた。


「我は犬ではない、そもそも同じ次元だなどと考えることがおこがましいわ」


その瞳はさっきのように細められていたけれど、しかしそこに冷たさや蔑み、嘲笑の色は少しも残っていなかった。

この男の言っていることを要約すれば、やっぱり“我とお前は格が違う”ということに変わりはないのだが、どうしてか、少しだけわたしたちの距離は縮まったような気がした。

しかし少女はまだしばらくの間、気づくことは無い。

このギルガメッシュが本当に“雑種”と思うような相手なら、そもそもベッドに寝転がった時点で“死んで”いるはずだということに。




蛇に愛された蛙
(あ、っていうか、今わたしのこと名前で呼んだ)
(12.4.10)
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我と書いて俺と読む……さすがギルガメッシュさんバロスです(^p^)
原作をやっていないので細かい設定は存じ上げません。
あの光の中からベッドとか出せるのだろうか(^p^)

そしてギルガメッシュも純血統じゃない罠。
猛烈な雑種ばろす。



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