神様に愛された二人




「なあ、グラムは、神様っていると思う?」


薄暗い部屋の中、目の前の雨生龍之介はわたしに問いかけた。
この男が議論に及ぶようなことを口にするのは珍しい。
普段は挨拶をするのも億劫そうに見えるのに。
いつもと調子の違う龍之介がいったいどんな表情をしているのか拝もうと顔を上げると、そこには目を見開いてうっすら頬を高揚させ、顔や服に血しぶきを散らし心なしか荒い息遣いをする殺人鬼がいた。
まぎれもなく興奮状態だった。


「俺はさ、神様が血なまぐさいの大好きだってことは知ってたけど、まさかここまでとは思わなかったよ、まいったなあ!」


しかし彼は問いかけておいてわたしに返事は求めていなかったらしく、ひとり饒舌になると更に荒い息を吐き出した。

……神様なんて、いない。
いるはずがない。
そう思わせるような光景が、今、わたしの目の前には広がっているというのに、龍之介にとってそれは間逆に映っているようで、この話に折り合いをつけることは難しいだろう。
差し詰め“理解できない”、その言葉こそが唯一の妥協点といったところか。


「なあ、グラム……」


彼が、わたしの名前を呼ぶ。
その声が先ほどとは打って変わってあまりにも頼りなくか細いものだから、わたしは息をするのも辛い状態で、もう一度だけ、彼の顔を見上げた。


「世界で一番だいすきな人のハラワタが、世界で一番美しく見えるって、神様ってば、最高にCOOLだよな」


殺人鬼は、極上の愉悦に浸っているというのに、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

……神様なんて、いない。
いるはずがない。
もしいたとすれば、こんなに酷いことがあって良い訳が無い。

愛する人に抉じ開けられ、外気に晒された内臓がびくびくと悲鳴をあげた。
それに呼応するように、龍之介の指先が小さく歓喜に震える。
わたし達は愛し合っていたのに、こんなことはあまりにも酷すぎる。

しかし人を殺めることを喜びとする龍之介と愛し合った時点で、最終的にこうなることは決まっていたのかもしれない。

そうか、最初から決められていた……、決められていた?
……誰によって?

……ああ、そういうことか……。

わたしはここにきてようやく、最愛の人の考えを理解することができたような気がした。
自分の死、それをもってして。




神様に愛された二人
(最高のエンターテイナー、って感じ?)
(12.4.6)
――――――――
いやーそもそも龍之介って人を愛するのだろうか

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