あなただけの護衛獣




見渡す限りの荒れた廃墟に、成す術も無くただ一人立ち尽くす。
こうなったらもう、何もしなくていい。
といより、することは何一つ残されてはいないだろう。
何かをする意味も、今の俺には見いだせそうも無い。


「結局最後は、こうなるか」


予想はしていたこと。
何年、何十年先にこうなることは、簡単に想像できた。
だけど実際なってみると、なんて空しいんだろう。


「これだから人間は……嫌いなんだよ」


みんな死んだ。
戦いで死ぬものもいれば、年老いて死ぬものもいた。
軍から独立していったものも、ここ数年ぱったり消息が途絶えてしまった。
きっともう誰も生きてはいない。
残ったのは、生と死の概念を持たない俺ただ一人。


「俺もとっとと、サプレスに帰るとするか」


晴れて自由の身になった俺が、ここにとどまる理由なんて何もないんだ。
そう……何も。


“バルレル……また、ね”


なのに、最期に笑ったあいつの顔が、脳に焼き付いて離れない。
あいつの声が、あいつのぬくもりが、手の感触が、今も体中にまとわりついている。
それは誓約のような強制力を持たないくせに、俺をずっとこの地に縛り付けた。
お前の言う“また”は、いつ来る?
待っていれば、訪れるものなのか。


「……ちく、しょう」


いっそはぐれになってしまいたかった。
有無を言わさずこの地に取り残されたなら、あいつを憎んだり、馬鹿みたいに待ち続けることで、まだ繋がっていられたのに。

こんなのは、空しすぎる。


“バルレルの次のマスター、いい人で……ありますように”


祈るように閉じられた瞼が、次に開くことは無く。
最後の最後に解かれた誓約が、俺とあいつをつないでいた全てを、断ち切ってしまったようで。




あなただけの護衛獣
(次のマスターなんて、そんなもん……、)
(11.04.28)


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