そして大坂には秋が来る




嫌な知らせを聞いた。
いてもたってもいられず馬を走らせたけれど、もうどこを走っているのかもわからなかった。
ただ血の臭いのする方へ、それだけを頼りにたどり着いた四天王寺。

信じない。
信じたくない。
お願いだから、こんな知らせは嘘だと言って。

馬から下り、祈るように足を踏み入れた神社の境内。
賽銭箱に小銭を入れて手を叩けば願いが叶うというのなら、嫌と言うほどの銭をあげる。
はれ上がるくらいに手を叩くから。
お金も手もいらない、何もかもなくなってもいいからどうか、お願い。

わたしから、奪わないで。
たったひとつ、彼だけは。


「……幸村……」


だけどもう、心のどこかではちゃんと理解していた。
あんなに真面目で誠実な家臣の持ってきた知らせが、嘘であるはずがないということ。

神社の中で一際大きく育った幹の影から伸びる、その見覚えある赤い腕に、手を伸ばす。


「……ゆき、むら……」


無我夢中で馬を走らせたわたしの身体は冷たく、その愛おしい腕にある温もりの是非を確かめることはできない。
だけど、確かに感じるずっしりとした重み。


“真田幸村、討ち取られたり”


いつものような愛の言葉ではない。
いつくしむような温もりでもない。
目の前のこの腕が伝えてくれるのは、その事実だけだった。

お金も要らない。
手も要らない。
それでも奪わないで欲しかったのに。

再会を喜ぶように、決別を惜しむように、きつくきつく抱きしめた。
首から上のない、その身体。




そして大坂には秋が来る
(幸村の価値は、頭部なんかではないのに)
(11.12.26)
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歴史はあまり得意ではないのです。あうあう。


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