魔女になる




ベッドから上半身だけを起こして、窓の外を眺める。
なんだか今日も、外は騒がしいみたい。
……わたしには理解できない。


「わたしね、魔女になりたいの」
「……左様で御座いますか」


アフタヌーンティをいれていたセバスチャンの手が、少しだけ止まったようなきがした。
だけどそれも一瞬のことで、ポットから流れ出るナイアガラは、今日も変わらずわたしを喜ばせる。
―――ああ、甘い。
ヘンゼルとグレーテルに出てくる魔女の住む家は、こんな香りかしら。


「魔女になってね、魔法を使うのよ」
「……それは素晴らしいことでございますね」


わたしの知っているいろんなお話。
その中に、魔女は度々姿を現した。
いろんな魔女がいて、いろんな魔法を使うのよ。
それは一見恐ろしいのだけれど、最後にはお姫様はいつだって幸せになった。
魔女は隠れた幸福の証。
みんなが思うほど、悪くなんてないのよ。


「だけどね、セバスチャン。どうしたら魔女になれるのか、わたしにはさっぱりよ」


口に含んだりんごのタルトは、ほっぺが落ちてしまうくらいに美味しい。
白雪姫に林檎を送った魔女も、きっとタルトが大好きなはず。
なのにわたしは、毎日タルトを食べたって魔法なんて使えない。
甘いものなんて食べてるところ見たことが無いけれど、セバスチャンのほうが、よっぽど魔法を使えるみたい。


「知りたいのですか?魔女になる方法を」
「もちろん、知りたいわ」


セバスチャンの動きが、今度は確かに止まった。
その唇が、僅かに笑むように開く。


「……お嬢様も、なれますよ―――魔女に」


たっぷりともったいをつけて、セバスチャンは微笑んだ。


「うそっ」


わたしがベッドから乗り出すよりも先に、ぐっと、セバスチャンが踏み込んで距離を詰める。
片膝を立てられたその重みで、ベッドがギシリと音を立てた。


「お嬢様が望むのなら」


その薄い唇に、人差し指が立てられる。


「私がお嬢様を、魔女にして差し上げましょう」


今までに無いくらい近づいたセバスチャンの綺麗な顔。
外の騒がしい声も、嘘みたいに消えてなくなる。
その真っ赤な瞳から、もう目をそらせるはずが無かった。
……ああ、わたしが憧れていたのは、絵本の中の魔女なんかじゃなかったのかもしれない。

そうね、きっと、魔法ってこういうことをいうんだわ。


「私は悪魔で―――執事ですから」


―――かまどに落ちて焼け死ぬ。
真っ赤に焼けた鉄の靴で、死ぬまで踊る。

……ヒロインをハッピーエンドへと導いたその裏で、魔女本人は哀れな末路を迎えているという事実に、少女はまだ気づかない。
今日も窓の外では、魔女狩りを叫ぶ民衆の声が響き渡っていた。




魔女になる
(その意味も知らない、哀れなお嬢様)
(11.12.18)
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昔々、悪魔と性交渉に及んだ女を魔女とする時代がありましたとさ。
そして残念なお知らせ。人魚姫は泡になっております(^0^)


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