×××万画素の瞳




片方の目を失ったことを、それほど嘆いたことはない。
物の距離感が掴みづらいというだけで、慣れれば日常生活に支障をきたすことはなかったから。
この目が見えていたら大陸一の剣士になれていただろうとも言われたが、それもそこまで欲しい地位ではなかった。
そもそも兄の命を奪ってしまったことに比べたら、目玉のひとつくらい、甘んじて差し出すべき代償だ。
……そう、思っていた。

だけど今は。


「グラムは、綺麗だな」


愛おしい人のその頬を、慈しむように優しく撫でる。
彼女の全てが愛しくてたまらない。
柔らかい唇も、意志の強そうな眉も、長い睫毛も。
宝石のような瞳も。
しかしもっとよく見ようと顔を寄せれば、近づくほどに俺の視界から彼女の左半分が消えていく。
唇も眉も睫毛も瞳も。

こつん、と額と額とがぶつかり、彼女と俺の距離はゼロになる。
半分になってしまったグラム。


「グラム……」


……分っている。
後悔などするべきではない。
この目は失うべくして失い、不可欠な代償だった。

だけど、悔しい。
俺が不完全なばかりに、グラムを半分しか見ることが出来ない。
俺に目が2つあれば、どれだけ近くで見ても、グラムは減ったりしないのに。


「……アルフレート?」


……見たい。
完全な目で、彼女の全てを。

頬を伝って落ちた涙は、確かに片目を失ったことを嘆いていた。




×××万画素の瞳
(泣いてるの……?)
(11.10.9)
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人間の目は700万画素くらいっていいますよね。
片目でも両目でも画素数は変わらないだろうけど。


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