マリオネットの首吊り自殺




「あう、ん……ッ」


押し寄せる白い波に抗うことは、もうとっくにやめてしまった。
一度受け入れてしまえばそれは、拒絶するよりも簡単なことだった。
今日も“彼”の思うまま、なすがままに揺さぶられる。


「気持ち、イイか?」
「ぅ……ぁっ、ん」


だけどわたしがされるがまま空っぽでいることを、“彼”は許さない。
行為の間こうやって何度もわたしに問いかけて、答えを言わせて、その答えに満足したようでイラついた顔をする。
ベッドのスプリングが、悲鳴みたいに聞こえた。


「この形がイイのか?」
「ちが……う、……はぁっ」
「じゃあ、この大きさがイイのか?」


口を動かすのもなんだか無意味な気がして、わたしは続く“彼”の質問に首を横に振り続けた。
思うように答えないわたしにイラついたように、旋律は激しさを増す。
それは文字通り攻め立てられているようで、わたしはやはり、首を横に振ることしか出来なかった。

毎夜毎夜、“彼”は狂ったようにわたしを求める。
その度違う“彼”の形、大きさ、髪の色、背の高さ、声の質、その他もろもろ。
それでもその“中身”が“彼”であるのだから、やはり目の前のこれも“彼”なのだろうか。
わからない、わからない。
だけど毎夜ひとつだけの共通点、目の前のこれからは、同じにおいがした。

生臭い、血のにおい。


「ひひ……昨日のヤツのほうが、良かったかぁ?」
「……昨日の、人は……どうしたの?」
「……知るかっつーの」


“彼”は毎夜毎夜違うからだでわたしを抱いて、決まってその後、そのからだを殺した。
今わたしに覆いかぶさり目の前で切ない表情を浮かべているこれも、きっと明日には殺される。
そしてその夜には、これの血のにおいをつけた別のからだが、わたしを抱くのだろう。
その繰り返し。


「……なんで、こんなこと……ッん!」


昨日とは違う太さの指が、結合部の上の敏感なところを弾いた。
強烈な刺激に、思わず声が出る。
それはわたしに、これ以上喋るなといっていた。

“彼”はそのからだでわたしにキスをすることはない。
抱きしめることも無い。
手をつなぐことも、デートをすることも、語り合うことも無い。
ただただ一心不乱に繋がるときだけに、どこからだか拾ってきたからだをつかう。
本来の“彼”に足りない部分を補うように、満たすように。
そして使うだけ使ったら、今度は怒りをぶつけるように、その身体を引き裂いた。

“彼”がどうしてこんなことをするのか、わたしにはわかっていた。
だけどそれを確信するたびに、今度は自分自身の気持ちがわからなくなっていく。


「……バルレル、」


“彼”の名前を、実感のないままに呟いた。
目の前のこれは、“彼”のおもちゃのように、“彼”の思うままに操られて首を傾げる。
そしてわたしもおもちゃのように、恐らく“彼”が望む言葉を、“彼”の思うままに囁いた。


「あいしてる」




マリオネットの首吊り自殺
(ああでもこんなことを言ったら、そのからだはいつもより酷い殺され方をするかしら)
(11.04.27)
――――――――
卑猥な話の印をつける程でもなかったのかも。
補足ですが、バルレルには生殖機能がないので毎晩そこらへんの男に憑依してセックスを強要してくる……みたいな話でした。
ヒロインはそんなこと望んでないでしょうが、こんなこと繰り返されるうちに心も壊れてもう人形なんで、自分の気持ちも曖昧です。
……っていうのを、補足なしで理解できるような文が書きたいよーーー!!!



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