袈裟が憎けりゃ坊主だって憎い?
わたしはヤナフが嫌い。
だって千里先まで見えるなんて、ストーカーみたいよ。
わたしはウルキも嫌い。
だって遥か遠くの音まで聞こえるなんて、変態だわ。
だからわたしは、そんな二人をお抱えのティバーン王が大嫌いよ。
そうよ、だいたい、あの二人がいなくたって……。
ティバーン王は、赤い鉢巻をしているし、緑の服を着ているし、とにかく嫌いよ。
だって……。
「おっと、大丈夫か?」
「あ……!」
ふらりと足を踏み外し、あやうく川に落ちそうになったわたしの肩を、力強い腕が抱く。
広い胸、雄々しくも優しい香り。
聞き覚えのある声に見上げれば、見覚えのある顔。
ボーっとしていた頭が、いっきに覚醒する。
(……ど、どうして、こんな何の変哲もない街道なんかに……!?)
わたしは慌ててその腕の中から出ると、その男の視線から逃れるように下を向いた。
助けられたお礼も、挨拶も、何もかもが喉の奥に引っ込んでいく。
だって、わたしは、この男が、ティバーン鷹王が、嫌いだわ。
「お前……確かどっかで……」
わたしは平民でこの男は王だけど、こうしてたまに、偶然のように何度か会ったことがある。
その度この男はさりげなく優しくて……、嫌になる。
王のくせに、どうしてわたしみたいな平民の女に優しいの。
どうして当たり前のように優しい笑顔をくれるの。
顔を伏せても尚覗き込んでくるその視線に、どきりと心臓が跳ねる。
嫌いよ、嫌い。
ヤナフとかウルキとか連れてるのも鉢巻も服も羽も黒い髪も、とにかく思い当たるティバーン王の特徴全てを否定する。
だって……。
「ああ、思い出した。城下の果物屋の娘だな」
だって、無理矢理な理由でもつけて嫌いにならなければ、わたしはその内、叶わない恋を、してしまうわ。
袈裟が憎けりゃ坊主だって憎い?
(顔……覚えてくれてたんだ)
(11.08.28)
――――――――
嫌い嫌い連呼してすみません、本当は大好きです。
ツンデレは辛いね。
街道で川に落ちそうになる不思議。
戻る
- 73 -