金の斧の劣等感
壁際に詰め寄られて、逃げ場を失う。
眼前に迫る、整った顔立ちと金の髪。
「……ねえ、グラム」
「何かしら」
面倒なことになったな、そう思った。
わたしが円と二人で歩いているのを見ると、鷹斗は当然良い顔をしない。
だから円と一緒にいるときは、鷹斗に出くわさないように気をつけていたのに。
なのにばったりと出会ってしまい、わたしは責められるようにして追い詰められる。
円なんて薄情なもので、巻き込まれる前にさっさと退散してしまった。
「グラムは、円が好きなの?」
切なげに寄せられた眉根に、何もいえなくなる。
円が好きかと聞かれれば……迷うことなく、好きなのだけれど。
だけどそれを鷹斗に面と向かって言うのは何故だかあまりにも無神経な行為のような気がして、彼自身が質問してきているにもかかわらず言葉は出せなかった。
「グラムは……金よりも、銀の髪の方が好き?」
さらり、彼が首を傾げた拍子に、流れるように金の髪も揺れた。
綺麗だと思った。
だけど、対称となるもうひとつの色の髪が脳裏に浮かぶ。
少しクセのある、だけど同じくらい綺麗な、銀の髪。
円の、髪。
わたしの、大好きな髪。
どちらが好きかと問われれば、わたしは迷わず銀を、選んでしまうだろう。
「……それとも」
ぐいっと、強引にあごが持ち上げられる。
必然的に、とても近い距離で鷹斗と目が合う。
唇が触れそうなほど近づいて、その瞳は今にも泣き出してしまいそうだった。
「円みたいに、強引な男が好きなの?」
……鷹斗は、答えを聞かずとも知っていた。
わたしが円を好きなこと。
その銀の髪をとても気に入っているということ。
だけどきっと、彼は知らない。
わたしは彼の髪が好きなだけであり、その色は金であっても銀であっても同じなのだということを。
金の斧の劣等感
(どうして俺を、選んでくれないの)
(11.08.24)
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グラムさんが円を好きなのはわかってるけど何故好きなのか分ってない鷹斗さん。
その条件さえクリアできたら自分も好きになってもらえると信じてます。
人を好きになるのって、そんな理屈じゃないのにね。
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