ヒロインでないというだけ




彼の心は固く閉ざされていた。
簡潔に言う。
そのトビラをあけることができるのは、わたしではない。


「……ルル、どうしてあなたはいつもそうなんですか」
「えへへ。可愛くてつい買っちゃったんだもの、過ぎたことは仕方ないわ」


談話室。
休日ということもあって、いつもより人が多く集まっている。
それぞれがいろんな話をしていて、全体的にノイズのようになっていた。
だけど、聞こえてしまう。
なぜか、彼と彼女の会話だけが鮮明に。
そしてそれに耳を塞ぐこともできずに聞き耳を立てる自分に、呆れてしまう。


「それにこれは無駄なものなんかじゃないわよ」
「僕にはそのようにしか見えませんが」
「もうっ、エストったら」


ちらりと二人を見やると、どきりと心臓がはねた。
いっそ清清しいほど華やかなルルの笑顔。
そしてその傍には、呆れつつも幸せそうなエストの横顔。

ああ、あんな顔、以前までは誰にも見せたことがなかったはずなのに。
そう、彼女が……ルルがこの学園にくるまでは。

それまでは、本当に日々は何気なく過ぎていっていた。
だけど彼女がきてからと言うもの、ミルス・クレアはなんだか変わった。
本当の意味で、何かが動き出したような気がした。
まるで、物語はここから始まるとでもいうように。

彼女はいろんなアビリティを持っていた。
無属性だということ。
使う魔法はとにかく律を無視して規模が大きいこと。
底抜けに明るくて誰からも親しまれること。
彼女の魅力全ては、誰からか愛されるためにあるような気さえした。

そしてその誰かが、彼だった。


「そもそもそれ、何に使うんですか」
「えっとね、こうやって……ほら、頭につけると可愛いでしょう?」


いいや、たまたま彼だっただけであって、きっと彼じゃなくても良かったはず。
みんながルルを好きだった。
なぜかルルに対しては、みんなが特別な一面を見せた。

そう、選ぶのは、選択権を持っているのは、完全にルルだった。


「……そんなもの、やっぱりいらないでしょう」
「ええー……」


彼女が来てから、物語は始まった。
今までずっと一緒だったのに、わたしとは何も起こらなかった彼とのイベント。
彼女がひとつひとつ回収していくたびに、わたしは思い知らされる。


「そんなものつけなくても……ルル、あなたは可愛いらしいですから」


彼の心のカギを持っているのは、わたしでないと。




ヒロインでないというだけ
(不公平、だ)
(11.07.25)
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夢でもなんでもなさ過ぎて上げるかどうか迷った話。
もし自分がヒロインポジでなかったらと考えると……おおコワイ。
……不愉快なお話ですみませぬ。



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