筆を投げられた物語の結末




王子様はその命を狙われて、動物になる呪いをかけられてしまいました。
それを救い出したのは、猛獣使いを目指すひたむきな少女でした。
二人はやがて恋におち、その愛はなんと王子様にかけられた呪いをといたのです。
その後二人は結ばれて、とても幸せに暮らしましたとさ。

……なんて綺麗な物語なんだろう。


「……」


途中誰にも会わないように気をつけながらようやく自分の部屋までたどり着いて、途端に力が抜けた。
閉めたドアに崩れるようにもたれかかり、そのままずるずると座り込む。

……遠くの方では、まだ歓声が聞こえる。

ようやく訪れた静寂はよけいに俺の精神を尖らせて、情緒を不安定にした。
だけど、もうあれ以上は無理だろ。
俺は……じゅうぶんがんばったよ。


「……グラム」


綺麗、だったな。
純白の衣装に身を包んだ彼女の姿が、脳裏に鮮明に浮かび上がる。
まるでこの日の為に生きてきましたというように、幸せそうな笑顔。
それを当たり前に腕に抱く、もうひとつの満たされた笑顔。
二人はまるで物語のように惹かれあって、結ばれた。

その美しい物語の中に、俺はいない。


「……馬鹿じゃねえの」


震える唇から搾り出した声は、やっぱり少し震えていて。
お似合いの二人の晴れ姿を思い出してしまうたび、強く頭を振ってそれをかき消した。

とある王国の王子様が隣の国へ渡ったとき、一人の少女と出会いました。
二人はとても親しくなり、将来の約束を交わしました。
しかし王子様はすぐに自分の国へ帰らなくてはならず、二人は離れ離れになってしまいます。
幾年のときを経て運命の再開を果たした王子様と少女でしたが、幼い頃に交わした約束を覚えていたのは、王子様だけでした。
少女はやがて別の男と結ばれて、盛大な式を挙げます。
王子様は自分があの時の少年であると打ち明けられぬまま、少女の結婚式を影から見守りましたとさ。


「……馬鹿じゃ、ねえの」


なあ誰か、褒めてくれよ。
俺は最後まで、式を見届けたぜ。
途中、何度も逃げ出しそうになって、そのたびどうにか踏みとどまって。
何も覚えてない。
どれほどの人数が来てたとか、誰に声をかけられたとか、出てきた料理の味すらも。
何も覚えてない。
彼女の幸せそうな笑顔以外、何も。

美しい物語の裏にひっそりと隠された、俺にとっての真実の物語。
この哀れな物語に、誰か結末をくれよ。

恋に破れた王子様は、どうすればいい。




筆を投げられた物語の結末
(お前にとっては終わりでも、俺にとっては……)
(11.03.31)
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ルシア攻略してから、他の人ルートでルシアの顔見れない……。


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