シュレディンガーは箱を開けてしまった




高い高い崖の淵に腰を下ろして、海を見下ろす。
冷たい潮風に当てられて、両手がジンジンと痛んだ。


“ふざけるな!”


さっきまでの光景がよみがえる。


“こんなもの、こんなもの……っ”


必死で土を掘り返し、墓石を割った記憶がまだ新しい。
だけどどこか遠い昔の話のようで、もう気分はだいぶと落ち着いている。


「高いなあ……」


崖の真下を見下ろしながら、声は吸い込まれるように消えていく。
こんなところから落ちてしまったら、きっと……。


「死ぬだろうな……」


誰も崖下へ降りていくことは出来ない。
だから、生死の確認なんてできっこない。

だからきっと、今見えている“あれ”は、わたしの思うようなものじゃない。
きっと、鮮やか過ぎた海草。
きっと、見たことの無い色をした魚。
それが緑色だからといって、“彼”だと決め付けるには、きっと早すぎる。

それなのにギャレオは彼の墓を作り、手を合わせた。
わたしはその墓を壊し、掘り返した。


「あ、ああ……ビジュ……」


土を掘り返した感覚が、途端に手からよみがえってきた。
掘り返した先には、何もなかった。
だって、“彼”の居場所は……。




シュレディンガーは箱を開けてしまった
(だけど、でも……死んだかどうかは触らないとわからないもの)
(11.06.12)
――――――――
ほんとにシュレ猫。
彼が死んだと決め付けるのは早いよギャレオ……!



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