言い訳も沈んでしまえ




キィっと、少し重たい音を立てて、扉を開ける。
真っ白な天井、真っ白な壁、真っ白な床に、真っ白な家具。
その家具の中のひとつ、ベッドに浅く腰掛て、うつろな瞳で椅子を眺めている彼女。
いや、正確には椅子なんかじゃなくて、ずっと前その椅子に腰掛けていた人物の幻影を……見ているのだろうけど。
一瞬暗い気持ちになったのを、首を振ってなんとか建て直し、いかにも明るく彼女に話しかけた。


「やーっぱり、ここにいたんだな」


そう言って、顔を覗き込む。
相変わらず視線の交わらない、彼女と俺。
気にしない振りをして、彼女の隣に腰掛ける。
俺が隣に座ったって、ベッドが少し傾いたって、彼女は気にしない。
彼女にとっては、関係ない。


「俺、今度さ、砂海亭のトマジのお使いで、モブ狩りに行くんだ!」


今日あった他愛も無いことを、一方的に言って聞かせる。
彼女にとっては、関係のない話。
この部屋にも空気にも不釣合いな、明るい俺の声だけがやけに響く。


「モブっていうのは、悪さとかしてハントを依頼されてる、いわば賞金首みたいなもんで、さ……」


いつもこう。
彼女とまともに会話をしたのは、もう二年も前のことになる。
ダルマスカが破れて……兄さんが、死んだ年。
それからも彼女は、空になってしまったこの病室へ毎日通い、俺もまた毎日ここへ訪れた。
彼女は……あの時の兄さんのように、心がどこかへ行ってしまったみたいになった。


「……なあ、グラム」


彼女は、グラムは、兄さんのことが大好きだった。
それは俺に対する好意とは全く種類の違う……恋愛感情。
兄さんが気づいてたかどうかは知らないけど、俺にはわかった。
だって俺にも、大好きな人がいたから。


「そんなに……兄さんのことが、好きなのかよ」
「……っ!」


彼女が微かな反応を示したのを見て、徐々に頭が真っ白になっていくのを感じた。
いつだってそうだった。
思えば何にも変わっていない。
兄さんが生きている時だって、彼女は俺を見てなんてくれなかった。
いつもいつも、兄さんのことばかり追いかけて。
今みたいに、兄さんのことばっかり見ていたんだ。


「……っ」


いつまでもこっちを見ない彼女の肩を突き飛ばし、ベッドに沈める。
無理矢理に覆いかぶさっても、彼女は反応を示さない。
悔しくて悔しくて、したこともない口付けを落とせば、歯で傷ついた唇から、ほのかに彼女の血の味がした。




言い訳も、沈んでしまえ
(俺のことだけ、見てくれよ)
(10.09.10)


戻る

- 62 -





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -