つまりは体よく××された
「ねぇ、ニア」
「はい、何ですか」
パズルを組み立てる手を休め、後方を振り返る。
どこか心配そうな、不満そうな顔をした少女がそこにいた。
恐らく後者が正しい彼女の心境なのだろうけれど。
彼女の口から発せられる言葉など、大体想像がつく。
「キラは捕まりそう?」
「そうですね、難しいかと思われます」
すでに本日何度目かになる質問をする彼女に、こちらもまた同じ言葉をそのまま返す。
返ってくる言葉がわかっているだけに、彼女の落胆加減は日増しに小さくなっているようだ。
「ですが心配しないで下さい、グラム。この部屋のライフラインもかなり充実してきているはずです。その内、外出気分を味わえるようなシステムも追加しましょう」
「外出“気分”じゃ、意味ないわ……」
彼女が小さく呟いた不満に、ただ聞こえていないふりを通すしかない。
この部屋には、彼女と私の二人きり。
人二人が入る分には決して狭くない、いや、広すぎるくらいの空間に、整いすぎたライフライン。
欲しいものは何でもネットから手に入り、食事も好きなものを好きなだけ食べることが許される。
楽園のような、檻。
「ねぇ、ニア」
「はい、何ですか」
とても便利な世界。
だけど、出ることの叶わない世界。
内側からも鍵が無いと出られない扉は、さながら牢獄のよう。
「キラが捕まって世界が安定するまでは、危ないから身柄を保護してくれてる……のよね?」
「はい、そうです」
「キラは、いつ、捕まるの?」
そして鍵を握るのは、恐らく彼女が逆立ちしたって欺くことが不可能な、この私。
「恐らく、全てが手に入ったとき……でしょうね」
「……?」
最初の頃、感謝の視線で私を見つめていた瞳は、いつしか一向に開かない扉を恨むような眼差しで見つめるようになり。
そして今は、届かないものを夢見るように、窓から高い高い空を見上げていた。
キラは捕まらない。
キラ対策本部として立てられたSPKも、とっくの昔に解散していた。
世界は平常どおりに回っている。
だってキラは、死んでしまったから。
「ですが、グラム。キラは、“捕まってない”んですよ……」
「え?ニア、今何か言った?」
振り返った彼女の、何と美しいことか。
「いいえ、塔が、壊れてしまったようです」
パズルで組み立てていた塔は、いつの間にか、足元で瓦礫の山と化していた。
つまりは体よく××された
(キラは捕まっていない……。嘘は、言っていません)
(11.02.24)
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××=監禁^0^/
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