花束は君の胸の中に



「ごめんなさい」


それは一週間前のこと。
ぽかぽかの陽射しに、どこからか漂う甘い香り。
彼がポケットからわたしに差し出した真っ赤な薔薇が、空しく風に揺れる。


「えっ……」


この時、明るくて落ち着きの無い彼がショックで押し黙ってしまうのを、初めて見た。
彼のことは好きだった。
否、異性としては“嫌いではなかった”と言うべきかもしれない。
彼からの申し出を断る理由はなかったが、受ける理由だって何一つなかった。
彼は大好きな友達。
今はそれで良いと思った。
だから、彼の一世一代の告白に、わたしは首を横に振った。
それからだ、めっきり彼の姿を見かけなくなったのは。
彼は町にも出ず、公園にも訪れず、家のカーテンさえ締め切ってしまっていた。
そして一週間後の今日、わたしは彼と再会することになる。


「……ナッティ……?」
「ふふ、あはははは」


ぽかぽかの陽射しに、どこからか漂う冷たい香り。
何一つ変わらない景色の中で、変わってしまったのは彼ただ一人。
一週間前とはまるで違う彼の風貌に、わたしはごくり、息を呑む。


「……おしゃれ、変えたんだね」
「いひひひひっ、ひひ」


包丁、ハサミ、アイスピック、カッターナイフ。
彼が身に着けていた甘ったるいお菓子の面影はもうない。
それはもはや、目の前の彼が一週間前の私が知っているナッティではないということとイコールだった。


「グラム、グラム、ひひっ、はははははは」


じりじりとにじり寄ってくる彼に、一歩後ずさる。
一週間前、花束を差し出したナッティの笑顔が、ふと頭をよぎった。
彼が、ポケットに手を突っ込む。
出てくるのは当然、お菓子や花束なんかじゃないだろうことは、さすがのわたしにもわかっていた。




花束は君の胸の中に
(薔薇、薔薇、真っ赤な薔薇ぁ!グラムと結婚するー!)
(11.06.12)


戻る

- 26 -





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -