きみはもうおれのもの




時間跳躍という未知の科学まで身につけて、彼はわたしを捕まえた。
そして今、国という組織を駆使して、わたしを自らの手元に縛り付ける。
相変わらずやることのスケールが大きすぎて、反吐が出そう。

そう、思っていたことを率直に告げれば、それでも彼は満足げな笑みを貼り付けたまま絶やさない。
貼り付けた……というと、少し表現が違うかもしれない。
彼は、心の底から笑っていた。
嬉しくて仕方がないというように。

ぞくり、やはり悪寒とともに吐き気がする。


「グラム、こっちにおいで」
「行くわけないじゃない」
「おいで」


有無を言わせない笑みで、手招きをする。
彼はまさに王座と呼べる大きな椅子に腰掛けており、開いた自分の膝を叩いて場所をしめした。
口でこそこちらに選択権があるような物言いだが、その口調の強さには凄まじい強制力があった。

ここに来い、と。


「……」
「いい子だね、グラム」


仕方なく彼のいうままに近寄ると、満足げな笑みは深くなるばかり。
しかし、彼の言うとおりなんかにはしない。
彼のもとへ行くと見せかけて、彼の座る椅子の隣、ソファに腰掛けた。
しかしそれでも、彼の笑顔は揺らがない。
それが逆に恐かった。


「グラムは俺が嫌いかい?」
「ええ、とっても」


にこにこ。
気持ち悪くなるほどの笑顔。
自分が否定されているというのに。
しかも、わたしが言うのも何だが、自分の慕っている相手に拒絶されているのに。

狂ってる、吐き気がする。


「ああ、早く帰りたいわ。元の世界の小学生の鷹斗なら、大好きなのに」


わざと皮肉をこめて言ってやる。
肘おきに肘を突いて顔を支える、その優雅な体制のまま、鷹斗はやはり笑った。


「おかしなことを言うね、俺は俺だよ」
「全然違うわよ!」


気づけば、わたしは怒鳴って立ち上がっていた。


「あなたと鷹斗は、全然違うわ!一緒にしないで!」


あの頃の鷹斗は大好きだった。
それは恋愛の意味ではないにしても、それでも、好きだった。
もしもわたしを捉えているのがこの目の前の男ではなくあの鷹斗だったなら、わたしも少しは受け入れる気持ちになれたかもしれない。
現実逃避なんかじゃない。


「鷹斗は、鷹斗だったら、あんたみたいに……っ」


嗚咽が混じって、むせ返る。
感情的になるとどうしても、涙腺が緩くなる。
悲しいときより寂しいときより、何よりも、悔しいときが一番に。


「わたしに、無理矢理あんなことしな……ッ、ぐぁ、」


言葉の途中で、耐え切れず口から吐瀉物が吐き出た。
それは今朝食べたものと言うよりも胃液に近く、口の中が酸っぱくなる。

気持ち悪い、気持ち悪い。

気持ち悪い笑みを浮かべた鷹斗が、ゆっくりこちらに近寄ってくる。
膝を突いて、うずくまり嘔吐するわたしの背中を、気持ち悪いほどやさしくさする。


「無理しないで、グラム」


その顔は心配そうな表情を浮かべていたが、でもやはりその半分は喜びに満ちた顔だった。


「もう、君ひとりの体じゃないんだから」


わたしのお腹に手を当てて、微笑む。
意味なんてわからなかったけれど、寒気だけは感じた。

わたしは、この人から逃げられはしないのだと。




きみはもうおれのもの
(あの気持ち悪い行為を強制されてから、約2ヶ月のこと)
(11.07.20)


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