野生のチェレンを捕まえた!




『いっけー、きみにきめた!』
『うわっ、おさないでよ、グラム。ぼくはポケモンじゃないよ』
『チェレンはポケモンだよ!』
『ちがうってば!』
『だって、ポケモンって、“いちばんのあいぼう”ってことでしょ?』


“だからチェレンは、グラムのポケモンなの!”


そんな、昔話。
まだまだ幼く、くすっと笑えてしまうような可愛らしい話。
そんな話に、こともあろうに爆笑する女が一人。


「チェレンの小さいときの夢!“ポケモンになりたい”だよ!ドMか!」


幼稚園卒園の文集を見て、僕にその夢を与えた張本人がゲラゲラと腹を抱える。
この様子から察するに、この夢を抱くに至った経緯なんて忘れてしまっているのだろう。
そうに決まっている。
後から綺麗な理由をこじつけただけで、やっていることは友達の背中を押して四つんばいにさせるような外道極まりない人間だったのだから。
幼馴染の変わり果てたようで全く変わらないその姿に、ため息が出る。


「……いいよ、チェレン」


文集を見てひとしきり笑った後、グラムは笑い涙を拭きながら落ち着いた声で言った。
その笑顔は、昔のそれとは全く違って少しだけ面食らう。


「わたしの、ポケモンにしてあげようか」


薄く弧を描く唇から、誘うようにちらりと赤い舌が見える。
細められた瞳は、嘲笑うように僕を見下ろしていた。


“グラムのポケモンになる”


僕もまたその言葉の裏を探って、つばを飲んだ。

……思えば、僕は昔からその言葉の裏をかいていた。
グラムのポケモンになれるということは、この先ずっと一緒にいられることなのだと。
押されて踏まれて四つん這いにさせられて本当の野生ポケモンとタイマンはらされたって、グラムのそばにずっと一緒にいていいと固く約束されるなら、それでいいと。
それが、いいと。
卒業文集に夢を記した時から、ずっとそう思っていた。

グラムが手招きするままに、僕はグラムの足にキスをする。
10数年越しの、僕の夢が叶おうとしていた。




野生のチェレンを捕まえた!
(逃がしたり、しないでくれよ)
(13.1.10)
――――――――
うわー……\(^0^)/


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