瞬きも忘れてしまった




ぐちゃ。
何かが潰れる音がする。
生理的に、気持ち悪い音だと思った。
何が潰れたのかは確認できない。
だって、もう目が見えないんだもの。
ああ、そうか。
潰れたのはわたしの右目。
よりによって効き目を奪うもんだから、視界が悪くて仕方ない。


「モールさん、それはりんごではなく目玉ですよ」


今しがたわたしの眼球を許可無くもっていった目の前の男の肩をたたく。
少し遅かったようで、もうその口にはべっとりと血が付着していた。
咀嚼する音のまた気持ち悪いこと。
彼はカニバリズムではないが、りんごと目玉を見分ける瞳を持っていない。
今のわたしと同じ状況。
りんごと目玉では、味も大きさもだいぶと違うと思うけれど。


「ああ、これは失礼。しかし私は気にしませんよ」
「わたしが気にしますので、次からは気をつけてくださいね」


そういうと、モールさんの手が迷い無くこちらに伸びてきた。
それは優しくわたしの頬をとらえて、慈しむように撫でる。
まるで、目が見えているみたい。
ほんの少し、モールさんの口角が上がった気がした。


「わざとだと、言ったら?」


滑るようにわたしの顔を這っていた手が、ぴたりと止まる。
もうひとつ、無事だった左目のまん前で。
大きくて長い、少し筋張った指の先が、眼球に触れる。


「それ、喜んだら逆に怖くないですか?」


わたしの視界が完全に黒になるまで、あと数秒。
ふっと漏れたモールさんの笑みに、わたしは文字通り目を奪われる。




瞬きも忘れてしまった
(目に焼き付けておきたかったけれど)
(11.06.08)


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