僕は女の子じゃないから










「玲。」
「ひゃわぁっ!?」

 ぼーっとしながらテレビを見つめていた僕の頬に、冷たい何かがピタッとくっつく。
 無警戒だった頬にいきなり刺激を与えられて、自分で出した事も無いような声が出た。

「よーいちぃ…。」

 振り返ってみれば、ニヤニヤした顔で缶ジュースを持った陽一が僕の事を見ていた。
 両手に持っていたジュースの1本を僕に渡して、陽一は隣に腰かけた。

 風呂上がりのまま買い物に行ったのだろうか。

 上半身は裸のままで、タオルだけを首にかけていた。

「陽一、そのカッコでジュース買いに行ったの?」 
「あぁ?あー、別にいいだろ、この寮には野郎共しかいねぇんだから。」

 陽一が缶を開けると、プシッという気持ちの良い音がした。
 美味しそうにコーラを飲む陽一につられて、自分の缶を開けると、コーラの良い匂いがふわりと鼻を突いた。

 僕達の高校は寮制で、2人1組でルームシェアの形式を採っている。
 陽一は違う中学校だったから最初は不安で怖かったけど、慣れるとすぐに悪戯してくる、でもいい奴だった。

 元々男の人が好きだった僕が陽一に惹かれるのに、あまり時間はかからなかった。

 馬鹿なんだけど、スポーツ大好きで、おちゃらけてて…。

 僕には無いものを沢山持ってる。そんな陽一が眩しかった。
 
 
 
 
 
 
「そういえば玲、聞いたか?」
「…?何を?」
「隣の部屋の藤倉、彼女出来たんだってよ。」
「…へー…」

 「意外だよなぁ」とか言いながら、陽一は後ろに倒れた。
 
「あーあ、あいつが彼女できてなんで俺にはいないんだー!」
「陽一、モテそうなのにね。」

 僕がそう言うと、陽一はガバッと起き上がって、僕に顔を近づけた。

 ち、近すぎるよ…。

「ホントか!?俺、モテそう!?」
「うん。」

 かっこいいよ。

 その言葉は胸にしまって、陽一を見つめる。
 陽一は満足そうに頷いた。

「そーか、そーか。玲が言うならきっとモテるんだな、俺は。」

 なんだか良く分からない納得の仕方をしたみたいだけど、幸せそうなので何も言わないでおく事にした。

 だけど、僕はあんまり幸せな気持ちにはなれなかった。
 
「玲、俺に女の子紹介してくれよー。同じ中学の子とかさ、この高校に来てる子もいるだろ!?」
「え、あ、うん、一応、いるけど…。」
「なぁなぁ頼むよー。」

 僕の肩を掴んで、眉をハの字にしながら頼んでくる陽一。

 そんなに知り合いでも無い人達しか来てないから、って言って諦めて貰ったけど、陽一はしばらく彼女が欲しいと唸っていた。
 そんな陽一を笑って見ていたけど、心の中では笑えて無かった。

「かわいい彼女がほしーい!」
「うるさいなぁ、もう。」
 
 わめいていた陽一が、ふと何か思い立ったのか、急に静かになった。

 何事かと顔を見れば、ばちっと目が合ってしばらく見つめ合う。

「…な、なに?」
「……玲って、女装したら可愛いかな。」
「へっ?」
「かつらとかつけて、女の服来たら絶対似合うって!」
「えぇー?」

 そう力説する陽一に呆れたけど、間接的にでも、陽一に可愛いと思ってもらえたのは少し嬉しかった。

「変な事言うなよ、ばーか。」
「馬鹿って言うなよー、本当なんだから!」
「認めるなよっ!」

 軽ーく突っ込みとか入れたりして、お互い笑い合う。
 楽しそうに笑う陽一の顔を見て、あったかい気持ちになって、少しだけ、寂しくなった。
 
 
 
 
 
 
 
 僕は、女の子にはなれないから、

 君に好きになってはもらえない。
 
 
 
 
 僕は、女の子にはなれないから、

 君を好きになっちゃいけない。
 
 
 
 
 
 
 
 女の子の格好したいとか、女の子に生まれたかったとか、そんな事は思った事無いけど。
 
 
 それで、君に好きになってもらえるのなら、
 
 
 
 
  
 
 
 
 
 
 僕は女の子になりたい。






-END-






乙女な玲君。





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