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多分、誰よりも君を
「っう、く…んっ…」
ギチギチと軋むベッド。その上で膝をつきながら、俺は男に後ろから挿れられてる。
「たっちゃん、どう?」
激しく腰を打ちつけながら、俺の耳を舐めながら、
後ろの男は甘い声で俺の耳元に囁いた。
俺は俺で返事を返す余裕も無く感じまくってて。
だから、そいつの問いに「あー」とか「うぅ」とかしか言えなかった。
そんな俺を見て察したのか、そいつは凄く満足そうな顔をして俺の事を攻め続ける。
自分の体も支えられないくらいへろへろになった俺は、ただそいつのされるがままにベッドの上で揺れていた。
「たっちゃ、たっちゃん…!」
ガツガツ攻め立てるそいつは俺の名を狂ったように呼んだ。
名前を呼ばれる度に背筋がゾクリとして、頭がチカッとする。耳なんて真っ赤になってるのが分かるくらい熱くなる。
馬鹿野郎、馬鹿野郎。
そんな風に、俺の名前、呼ぶなよ。
***
「セフ、レぇ…?」
「そそ、俺と。」
俺の顔を見ながらにっこりわらうあいつ、―恭介にそう言われたのはいつの頃だっただろうか。
その言葉の意味が分からなくて、穴が開くほど恭介の顔をぽかんと見つめていたのを覚えてる。
季節は春。
期待に胸ときめかせて中学に入学した俺はいつの間にか3年生。
ゆるやかに、だけど足早に過ぎ去っていく日々をだらんと過ごしていたら、いつの間にか男に「セフレになろう」なんて言われる年頃になっていた。
…いやいやいやいや。
そんな年頃ねぇよ。
「…はぁ?」
長い長い間を空けて、俺は静かに聞き返した。
これが普通のリアクションだろ?
「だから、俺とエッチしようよ。」
そんな俺の反応を物ともせずに、恭介は眩しい笑顔で俺を口説き(?)続けた。
「絶対気持ちよくするから!」
「いやいやいや…」
お前割と顔整ってるし、背も高いし、言えば近寄ってくる女なんていくらでもいるだろうが。
そんなお前がなんで俺、しかも男の俺にセフレとか言うかな。
「女はねぇ…ちょっと飽きちゃった。」
…あ、そう。
およそ普通の中3とは思えない台詞をさらっと言い放った恭介は、どう反応していいか困っている俺の肩を両の手でがしっと掴んだ。
「…とりあえず、いっぱつ。」
「え、まじで?」
「うん。」
…なんで、あの時断らなかったのか。
男と寝るなんて、普通じゃありえないのに。
興味本位にしたって、冗談が過ぎる。
あの時断ってれば、こんな思い、
しなくて、すんだのに。
「た、たっちゃん…気持ちいい?」
「う、ん…。」
恭介の部屋。
窓を開ければ、クーラー要らずの涼しい風が部屋に入り込む、夕方前の涼しい時間帯。
ベッドに深く腰掛けた俺の後ろから抱きつくような格好になった恭介は、ぎこちない手つきで俺のナニを扱いていた。
女とは飽きるほど色んな事をしたんだろうけど、男とは流石に初めてらしい。
勝手の違う相手に、少し戸惑っているみたいだった。
耳元で恭介の少しだけ荒い息遣いが聞こえる。
男にこんな事されるなんて本当は気持ち悪いはずなのに、何故か俺も少し興奮していた。
人にこんな事をされるのが初めてだから、興奮してるんだ。絶対そうだ、うん。
恭介にこんな事されて嬉しいなんて、そんな事絶対ない、はず。
「…!…きょ、すけっ…やば、いかもっ…」
下半身がゾクリと疼く。
やばい、イキそう…。
自分でやるのと違って、恭介の手は加減を知らない。
もうそこまで射精感は迫っているのに、扱く速さは激しいままで。
ただでさえ人にされるのは気持ちがいいのに、そんな風に激しくされて、俺の頭は溶けそうだった。
「ぅ、あっ…きょ、すけ…ま、って…」
「イっていーよ、たっちゃん。」
首筋に恭介の唇が吸いつく。
恭介の空いた方の手が、俺の手のひらの下に潜り込んで、指を絡めてきた。
男同士なのに、嫌なはずなのに。
恭介のする事一つ一つに反応して、その度に心臓が高鳴る。
「っひ、ぅ…!」
恭介の手をギュッと握って、俺は果ててしまった。
「たっちゃん、かーわい。」
恐らく今までの人生で一番気持ちの良い射精をしてぼーっとした頭に、恭介の言葉は届かない。
ただ荒くなった呼吸を整えるのに必死で、起こしていた体をベッドに沈めるしか出来なかった。
「気持ち良かった?」
俺と同じようにベッドに横になった恭介が、満開の笑みで俺の顔を見る。
何も考えられない頭では、返事を返す事も悪態をつくことも出来ず、
何秒か見つめ合った後、俺は眠りに落ちてしまった。
***
そういや初めてそういう事した時って、俺が抜かれて終わりだったっけ。
今じゃ考えられないくらピュアだったなぁ。
今は違う。
会えばヤる。どこでもヤる。
俺と恭介の関係は、友達でも恋人でも無くて、セフレ。
オナニーの代わりに、人の体を使う。
ただそれだけの関係。
のはず、なのに。
「っふぁー、お風呂きもちよかったー。」
濡れた頭をタオルでガシガシと拭きながら、パンツ一丁の恭介が俺の隣に座る。
先に風呂を浴びた俺は、恭介を待つ間疲労と腰の痛みと戦いながらウトウトしていた。
携帯を開く隣の恭介をちらりと見てから、背中をベッドに倒す。
蛍光灯しかない真っ白な天井はすごく眩しく感じて、俺は静かに目を閉じた。
このまま眠れそう、とか思っていると、ギシッという音がして、俺のお腹の上に何かが乗った。
目を開けて見れば、体を横に倒した恭介の頭が俺のお腹に乗っている。
「…何してんの。」
「んー?まくら。」
それだけ言って恭介はまた携帯を弄り始めた。
セックス以外でも何故か恭介はぺたぺたとくっついてくる。
自分で体だけの関係と言い張る割には慣れ慣れしい。それが今の俺には少し嬉しかったりもするんだけど、だからこそ分からない。
体だけって言うなら、なんでこんな風に接するのか。
ヤるだけやって帰ってくれた方が、気持ち的には楽なんだけどなぁ…。
お腹の上の恭介の頭を2、3度撫でて、俺はまた目を閉じた。
恭介が何か言った気がしたけど、それが何だったのか考える間もなく俺は眠りに落ちた。
***
目が覚めて、一番最初に目に入ったのは真っ白な天井じゃなくて恭介の顔だった。
「おはよ。」
そう言って恭介は俺のおでこにキスをした。
額がじんじん熱くなって、それがだんだん顔中に広がる。
きっと、多分、いや絶対、今俺の顔は真っ赤になっているだろう。
嬉しいけど、嬉しくない。
期待するけど、するだけ損。
だって、この関係は体だけだから。
複雑な気持ちになって、俺をこんな風にさせた恭介をキッと睨みつける。
俺の視線なんてやっぱり気にも留めない恭介は、ニコニコしながら俺の事を見ていた。
「…なに。」
とりあえず動じていないふりをして、いまだに俺の顔を覗き込んでいる恭介を押し上げた。
「いや、たっちゃんの寝顔かわいいなーって。」
「な、なっ…」
なんなんだ。
なんなんだ、もう。
真顔でそんな事を言う恭介に嫌気がさした。
「寝顔はいっぱい見てきたけど、たっちゃんのが一番かわいいよ。」
そう言って恭介はにへらっと笑う。
恭介のその何気ない一言が、俺の胸をちくりと刺した。
忘れてた訳じゃない。ただ、その事をを考えたくなかった。
恭介とセックスしたのは、俺だけじゃないって事。
恭介はたまに、こうやって俺を前に寝たのであろう女達と比較する。
恭介はその事を別に何とも思っていないのだろうけど、俺は辛かった。
分かってる、分かってる。
恭介は女に飽きたから俺と寝てるんだ。
ただそれだけなんだ。
だから、恭介が俺の事少しでも気にしてくれてるかも、なんて。
ない、よね。
「…うるさい。」
「えーなんでー、褒めてるんだよ?」
「…寝る。」
ごちゃごちゃ言い続ける恭介に背を向けて、俺はまた目を閉じた。
俺の中に芽生えた、小さな感情。
それは愛と呼ぶにはあまりに不純かも知れない。
体を繋げる事から始まった俺達の関係は、きれいな部分なんてどこにもない。
だけど、俺は、
それでも俺は、
お前の事が、好きなんだ。
と、思う。
-END-
体だけでも何でもいいから、好きな人と繋がりたい。
って一途な子はきゅんとするので大好き。
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