お前は俺の嫁










『いっちゃん、いっちゃん。』
『なぁに?』
『ちゅうがくせいがおわったら、いっちゃんのことぼくのおよめさんにしてあげる!』
『えー?…たのしみだなぁ。』
 





 
 
***





 
 
 
「…という訳だ。」
「ぜんっぜん意味分かんねぇよっ!」

 ここは俺の部屋。篤とはさっきまで普通にゲームしてたんだけど、なんか気付いたら押し倒されてた。
 訳分かんなくてされるがままになってたら、ズボンを脱がされそうになったから、慌てて篤の手を抑えていた。

「伊織、手を放してくれないか。」
「手ぇ放したら続ける気だろ?」
「うん。」
「ざけんな!誰が放すか馬鹿野郎!」
「…なんで。」
 
 なんでってなんだよ!俺の方がなんでだよ!

「あ、篤、急にどうしたんだよ…?」
「…。」

 篤の目が眼鏡の奥できらりと光った。

「俺達、昨日で中学卒業しただろ?」
「お、おう。」
「さっき、昔の約束の話しただろ?」
「んなもん覚えてないって。」
「だから、伊織を俺の嫁にしてやる。」

 シカトかよ。

「い、いいです。結構です。」
「遠慮するな。」
「してねぇよばーか、ばーか!俺から離れろ馬鹿っ!」

 俺に馬乗りになりかけている篤をどかそうと力を込めたけど、全然動かなかった。むしろ腕を押さえつけられて、篤と見つめ合う体勢になってしまった。じろじろと見られているのが分かる。なんか恥ずかしい。

「…いおり。」
「なんだよっ!」
「俺の事、嫌いか?」

 そう言った篤の顔は、少し悲しそうだった。

「…嫌い、じゃないけど。…そういう好き、ではない。」
「嫌いじゃないならイけるだろ。」
「意味わかんねぇ!なんだよその理屈!」

 昔からそうだ。俺が何言っても結局は篤が勝つ。俺のしたい事よりも、篤のしたい事が優先される。
 篤はいいやつだけど、俺の言う事はあまり聞いてくれない。

「だいたい、嫁に貰うって言ってなんで押し倒すんだよっ!?」
「そりゃあ…嫁を貰ったら、初夜ってものがあるだろう。」
「しょっ…!?」

 馬鹿な俺でもその意味は分かる。
 こいつ俺を犯す気か。

「やだっ、絶対やだっ!放せー!」

 力では敵わないって、何言っても聞いてもらえないって分かってるけど、俺は必死に抵抗した。
 けどやっぱり、抵抗虚しく押さえつけられた。

「…よし。」
「よし、じゃねぇ馬鹿!大体、そういうのってもっと順序ってもんがあるだろ!」
「順序?」

 お?食いついた。
 このままどうにか説得してこの状況を打破しないと…俺の貞操の危機!

「よ、嫁って事は、付き合ってないとだめだろ?いきなり奥さんとか変じゃん。それに、俺まず男だし…」
「…そうか。いきなりはやっぱりまずいか。」

 おお、いい感じに揺らいでる。

「そ、そうだろ?だから、とりあえずどいて…「じゃあまずは付き合う所からだな。」

 篤はそう言って俺のおでこにキスをした。
 いきなりの事で体が固まる。そして数秒後に、俺の顔はもの凄く熱くなった。

「伊織、顔真っ赤。」
「お、おおおお前がいきなりキスとかするからっ…」

 そう行った瞬間に、こんどは口にキスされた。正真正銘本物のキス。ついでに言うと俺のファーストキス。

「…!!!!!」
 
 
 
 
 言葉にならない叫び声というやつを、生まれて初めて出した気がする。
 
 
  
 
 ゆっくりと離れる唇。少しだけ赤くなった篤の顔。

「…じゃあ、18になったら嫁に貰うから、それまでは付き合うって事で。」
「…は?」

 篤は嫌味なほど爽やかな笑顔を見せた。

「楽しみだな。」
 
 
 
 
 
 全然楽しみじゃねえよ。

「とりあえずどけ馬鹿。」
「伊織からキスしてくれたらどくよ。」
「なっ…!?」

 篤はそう言って、せがむように頬に指先を当てた。

 したくない、けど、多分しないと篤は俺の上から下りてはくれないだろう。

「め、目ぇ瞑ってろよ!見んなよ!」
「うん。」

 目を閉じて頬を近付ける篤の頬に、ゆっくりと唇を近付けた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 俺が篤に勝てる日は来るのだろうか。






-END-






小さい頃の約束、覚えてる?





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