誕生日










 "好き"

 その2文字を真っ白なノートに書き落とす。左のページには沢山の君の写真。
 笑った顔、怒った顔、驚いた顔、つまらなさそうな顔…。

 君が、いっぱい。
 
 
 
 
 "好き"

 その2文字をノートに書き落とす。

 気付けば真っ白だったノートはその2文字で真っ黒に染まっていた。

 ふふ、ふふ…。
 
 
 
 好きだよ、すきだよ、スキダヨ。

 君は僕の気持ちに気付いてくれているかなぁ…?
 
 
 
 君の誕生日が明日だって事、ちゃんと分かってるよ。
 君が好きなバンドのCD、いっぱい買ったんだ。
 大丈夫、ちゃんと君が持って無いのだけを選んできたよ。

 明日、君に手渡すよ。

 喜んで、くれるかなぁ?

 それとも、ビックリするかなぁ?

 どんな反応でも、君はカッコ良くて素敵だよ。
 
 
 
 "好き"

 もう何度書いたか分からないその文字を、真っ黒なノートに書き落とす。

 ノートはもうぼろぼろになっていたけれど、構わずに書き続けた。
 
 
 僕の君への想い。

 こんなに、こぉんなに、溢れてるよ。
 
 
 
 
 
 明日、楽しみだなぁ…。
 
 
 






***






 
 
 
 ピンポーン―…



 ドキドキしながら君の家のインターホンを押した。なかなか出てこない。あれ?おかしいなぁ。君はこの時間はいつも家にいるのに。



 ピンポーン―…



 もう一度インターホンを鳴らした。

 少しの間が空いた後、ドタドタと慌ただしい足音が近付いてきた。
 トイレにでも入ってたのかな?ふふ。
 
 
 
 ガチャッ
 

「はいっ、すいませんっ!トイレ入ってて…」

 やっぱりトイレかぁ。

 僕は満面の笑みを浮かべて君にプレゼントを差し出した。
 ちゃんと綺麗に包装して、可愛いリボンを付けた。君にはあんまり似合わないかもしれないけど、可愛いからいいよね。

 君は驚いた顔で僕の事を見ていた。

 やだなぁ、そんなに見つめないでよ。
 もっと好きになっちゃいそうだよ。

「…今日、誕生日でしょ?」

 そう言ってプレゼントをなかなか受け取らない君に押し付けた。
 遠慮しなくてもいいのになぁ。

「…お」

 君の声は震えてた。

 そんなに嬉しいの?ふふ。声が震えるくらい喜んでくれるなんて、僕も嬉しいよ。

「お前…」

「なぁに?」

 君の声を聞くと口元が緩む。

 かっこいいなぁ。
 
 
 
 
「お、お前…お前誰だよっ!?」

 君はぺたんと尻もちをついた。腰が抜けた、っていうのかな?

「ひどいなぁ…僕の事忘れたの?」

 僕の言葉に君の瞳がビクンと揺れる。

「し、知らない…お前なんか知らないっ!」

 ひどいなぁ。

 そんな事言われたら…傷ついちゃうよ?

「く、来るなっ、こっち来るなぁっ!」

 一歩、また一歩。
 君にゆっくりと近づく。

「ひどいなぁ…コイビトにそんな事言うなんて。」

「誰なんだよっ…誰だよお前ぇっ…!」

 僕はポケットに忍ばせていたカッターを取り出した。

 チキチキ…と刃の出る音を聞くと、君は小刻みに震えだした。

 かーわいいなぁ。

「静かにしないと近所迷惑だよぉ?」

 玄関に入って、ドアを閉める。

「今日は君の誕生日だから。ずっと一緒にいてあげる。ずっと一緒に…。」

「や、やめて…許して…」

 ふふふ。

 満面の笑みを、僕は浮かべた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「たんじょうび、おめでとう。」
 
 
 



-END-






ストーカーのお話。


…恐っ。






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