「なぁー、真ー。」
「なに?」
「…そろそろエッチしてくれてもよくない?」
「嫌。」
俺がそう答えると、孝明はガクッとうなだれた。
「だいたい、お前と付き合ってるだけでも感謝してほしいくらいだ。」
「それは真がオッケーしてくれたからじゃんよー…」
孝明はあぐらをかいて座っていた俺の膝にごろんと頭を乗せた。
「…だめ?」
「だめ。」
「絶対?」
「無理。絶対やだ。」
孝明の目がウルウルしてきた。やめろ見るな。そんな眼で甘えても駄目だ。
「キスはオッケーなのになんでエッチは駄目なの!?」
そう言うと孝明は起き上がって俺を押し倒した。丁度向かい合う体勢になる。
「キスとエッチは違うだろ。」
俺がそう言うと、孝明は噛みつくようにキスをしてきた。孝明の舌が俺の口内にぐいぐいと侵入してくる。
「…っ!たかっ…!」
急にキスをされて反射的に孝明を押しのけようとする。
でも孝明は動じずにキスを続けた。
「っふ…、ん…!たか、あきっ…待、って…!」
孝明の手が俺の後頭部に回る。髪をクシャッとかき上げられて、首筋がゾクゾクしてしまった。
「真…可愛い…真…」
必死に抵抗してるのに、まるで無意味だった。押しつけた腕は軽々と掴み上げられて、手のひらに指をからめられる。ギュッと掴まれた手から伝わる体温が、いつもより熱い気がした。
ようやく長いキスから解放されると、今度は俺のシャツの中に手を入れてきた。
「なっ…!」
俺は足で孝明を蹴りあげようとした。
「真。」
孝明は俺の足をぐっと押さえつけて俺の名を呼んだ。
「…俺の事嫌い?」
その目はまっすぐに俺を見つめていた。
「…嫌い、じゃない…。」
自分の言葉を恥ずかしく感じて、顔を背けた。
孝明の顔が近付く。
「俺は、真のこと大好きだよ。好きで好きでたまらない。だから、いっぱいキスしたいし、エッチもしたい。」
そっと頬を撫でられた。思わずびくっとしてしまう。
「…だめ?」
孝明の綺麗な瞳が、俺の顔を、見つめていた。
そんな風に俺をみるなよ。
反則だろ、そんなの。
俺だって、お前の事好きで好きでしょうがないんだぞ。
***
「す、好きですっ!俺と付き合ってください!」
あれは高校に入学して初日の事だった。
HRで自己紹介を済ませて、さぁ今日は解散だと先生に言われてすぐだった。
「…は?」
俺は聞き返した。そりゃあ聞き返すだろう、こんな状況。
初対面の男に告白されるなんて。
「一目惚れ…しちゃった。」
孝明は照れくさそうに鼻を掻いていた。
こいつは頭がおかしいんだと思った。
俺が男だと分かっていないのか、いやそんなはずはない。自己紹介したし。まず俺は女に見えない。
「…だめ?」
こいつは頭がおかしい。
「え、あの、えーと」
なんなんだ、もう。
「じゃあ…お願いします…。」
そして俺も、頭がおかしい。
***
一目惚れ、孝明はそう言っていた。ああそうか、一目惚れか。
こんな漫画みたいな事ってあるんだろうか。
男同士なのに、初対面なのに、お互いに一目惚れするなんて。
俺だって初めて見たときから孝明に心を奪われていた。
なんでだろう、なんでかな。
理由は分からなかったけど、とにかく心惹かれた。
だから、告白された時、実はめちゃくちゃ嬉しかった。
でも、なんか…俺も好きですなんて言ったら、なんか変な気がして。
ううん、ただ恥ずかしかったんだ。
だから、とりあえずOKして、わざと素っ気ない態度をとった。そしたら孝明はずごいベタベタしてきて、それがまた嬉しくて。
そういうやりとりをしている間が、すごく幸せだった。
でも、孝明が初めてエッチしようって言ってきた時、なんだかすごく怖かった。孝明が違う人みたいに見えて、すごく嫌だった。
だから俺は絶対にOKしなかった。
怖かったから。
大好きな人が変わってしまう気がして怖かったから。
「真。」
でも、今は。
「…ばか。」
俺を見下ろしているのはまぎれもなく孝明だった。その優しい瞳が、俺をじっと見つめていた。
「…俺だって…好きだよ。」
その日、俺は初めて自分から孝明にキスをした。びっくりするぐらい心臓が高鳴っていて、すごく恥ずかしかった。
「真…。」
孝明は俺の言葉に驚いていたようだった。そういえば好きって言ったのも初めてだったかもしれない。
「やっ、優しく…しろょ…」
恥ずかしくて段々声が小さくなる。孝明はクスッと笑って、俺の額に軽くキスをしてきた。
「ありがとう。」
俺を見つめるその眼は、すごく優しい眼をしていた。
-END-
初体験って、やっぱり幸せを噛み締めながらして欲しい。
それがたとえ小説の話だとしても。
単に甘々が好きなだけなんですが何か。
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