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わがまま王子様
「なぁ、なんで俺が荷物持ちなんだよ?」
「アンタが僕の家来だからだ。」
「いつからそうなったんだよ…。」
両手いっぱいの荷物を抱えながら、俺はぶつくさと文句を垂れていた。そんな俺を気にも留めずに、祐次郎は俺の前をスタスタと歩いていく。
「おっそい!」
祐次郎は立ち止まってこちらを見ると、頬を膨らませながら文句を言ってきた。じゃあこの荷物お前が持ちやがれ。
…なんで俺はこんな事をしているのだろう。
祐次郎は俺が家庭教師をしている生徒の1人だった。ここらではなかなか名門の私立の中学校に通っていて、まだ中学1年生だが家庭教師を就けている。なんでも志望校がこれまた難関校らしく、今から勉強していないと間に合わないそうだ。
こんな早いうちからお受験か。今時の子供は大変だな…。と、初めて会ったときに思ったのを覚えている。
去年まで自分も年齢的には子供だった事は棚に上げておく。
祐次郎は最初は大人しくて品の良いおぼっちゃまって感じだった。まぁ家が金持ちみたいだし、こんなに早くからお受験させてるくらいだから、確かにおぼっちゃまなんだけどさ。
とにかく最初は大人しかった。最初は。
今みたいになり始めたのはいつからだっただろうか。気がつくと態度がガラリと変わっていた。おぼっちゃまからいつのまにか王様になっていた。しかも暴君に。
「先生、喉かわいた。」
ほらきた。王様のわがままだ。
「ジュースくらい自分で買えよ。」
「買い物して残ってない。」
「…じゃあ荷物ちょっと持てよ。財布取れないから。」
俺がそう言うと、祐次郎はすごく嫌そうな顔をした。すっごく嫌そうな。
「なんだその顔は。」
「僕が財布取るから荷物そのまま持ってて。」
祐次郎は俺のズボンのポケットをあさぐった。
「あっ、こら、ちょっ…!」
「みっけ!高いの買っていい?」
「…どうぞ。」
どうせ駄目って言っても買う気だろう。はぁ、とため息をついた。今の気分を表すには"トホホ…"という言葉が一番合っている気がする。
祐次郎は鼻歌なんか歌いながら自販機に1000円札を入れていた。
昔の礼儀正しくて可愛い祐次郎はどこへ行ったんだ。
クソ重い荷物を持ちながら祐次郎の帰りを待っていると、祐次郎がゆっくりと歩いて戻ってきた。良い御身分だな、ちくしょう。
「はい、ご褒美。」
そう言って祐次郎の手がスッと俺の目の前に伸びてきた。手には缶コーヒーが握られている。
「荷物運び御苦労様。」
照れくさかったのだろうか。祐次郎はそう言うと少し顔を赤らめてプイッと横を向いてしまった。なんだ年相応に可愛いところもあるじゃないかと少し関心してしまった。実際は俺の金で買っているという事は気付かない事にする。
「気持ちは嬉しいんだけどな、祐次郎…。俺まだ両手塞がってるんだわ。」
俺は少し皮肉を込めて行ってみた。
「あっそ。じゃあ後であげるよ。」
そう言って祐次郎はまた俺の前をスタスタを歩き始めた。どうやら俺の皮肉は全く効かなかったらしい。
「だから遅いって!」
どうやって祐次郎に荷物を持たせようか考えていると、また前から王様の文句が飛んできた。
「祐次郎が速いんだって。」
俺はのそのそと歩き始めた。
祐次郎はまだぶーぶー文句を垂れていたが、俺の隣で速度を合わせて歩いていた。ちらりと顔を覗き込むと、祐次郎と目が合った。
「なにジロジロ見てんだよ。」
「べっつにー。」
俺がそう言うと、祐次郎は「生意気だ」と俺の背中を殴った。痛いからやめろって。
「…先生。」
「ん?」
急に裕次郎の声のトーンが下がったので、不思議に思って裕次郎を見た。
「…どうせクリスマス予定ないんだろ?…だったらさ、僕ん家でパーティするから、その、あの…」
声が段々小さくなっていく。首にかけたマフラーに顔をうずめる仕草が可愛く見えた。
「予定がないは余計だ。素直に誘えよ。」
くっくっ…と笑いを堪えながら言うと、祐次郎は顔を真っ赤にして走り去ってしまった。
「お、おいっ!待てっ!荷物どうすんだ荷物っ!」
「うっさい!しらない!先生のばーかっ!」
祐次郎はあっかんべーと舌を出して、また走って行った。
まったく、うちの王様は世話が焼ける。
大量の荷物を落とさないように気をつけながら、祐次郎を見失わないように駆け足で追いかけた。
クリスマス、か。もうそろそろそんな時期か。
予定がないと言われてイラッとしたが、事実なので悲しかった。まぁ、これで今年のクリスマスは予定が入ったな。
喜んでいいのかわからない予定が入ったが、独りで過ごすよりはマシだろう。
気がつくと祐次郎は遥か彼方の方まで行ってしまっていた。
「おっそい!」
また王様のわがままが聞こえる。
-END-
ツンデレ少年。
ツンデレいいね!かわいいね!
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