「なぁ、俊。話があるんだけどさ…。」
放課後の教室。開かれたドアから波のように流れ出ていくクラスメイトを横目に見ながら、君は僕に話しかけてきた。
「どうしたんだよ、急にかしこまって。」
いつもの君らしくない行動に少し驚く。
君の顔は少し紅潮している気がした。窓からは夕日が差し込んでいたから、もしかしたらそう見えていただけなのかもしれない。けれど、ざわざわと騒がしい廊下と対照的に、教室には2人きり。
なんだか僕も顔が赤くなっているようだった。
「実は、さ…」
君の唇が小さく動いた。何を言おうとしているのか皆目見当もつかなかったけれど、心が何かを期待しているのを感じた。
僕は、君のことが好きだよ。
ずっとずっと心の中にしまっていた気持ち。いつからだろう?君に心惹かれるようになったのは。
見慣れていたはずの君の裸にドキドキするようになった。
君が僕にそっと触れると、ドキドキするようになった。
君が僕に笑顔を見せると、ドキドキするようになった。
いつからだろう?僕が君に恋し始めたのは。
「俺、さ…」
君はまだもごもごと唇を動かしている。顔は真っ赤になっていた。僕の心臓は張り裂けるほど脈打っていた。
「お前の姉ちゃんの事、好きになっちゃったみたいなんだ。」
勝手に僕の頭で積み上げられていた期待が、大きな音をたてて崩れていくのが分かった。
「やっぱり、そんな顔になるよな…。変なこと言って、ごめん…。」
君はバツが悪そうな顔で僕の事を見ていた。
きっと僕の顔はひどくショックを受けた様な表情だったのだろう。君はそれを別の意味で解釈したようだったけれど、むしろそれで良かったのかもしれない。僕が君に淡い恋心を抱いていると知ったら、きっと君は僕の友達ですらなくなる気がしたから。
「…そう、だったんだ。勇って僕の姉ちゃん好きなの?物好きだなぁ。」
そう言って僕はニカッと笑った。勿論作り笑いでしかなかったけど、君は僕の笑顔にホッとしたようだった。
「よかったぁー…俺こんな事言って俊に嫌われたらどうしようかと思ったぁ…。」
君は少し涙目になりながら僕に抱きついてきた。
「…ばーか。嫌いになるわけないじゃん。」
君の背中に腕を回して、ギュッと抱きしめる。君はへへへと笑いながら少し目尻に溜まった涙を拭った。
初恋は、絶対に叶わないって誰かが言っていた気がする。
勿論僕の初恋は叶うはずもなかったのだけれど、それでも実際にその現実を突きつけられると辛かった。
でも、君と友達でいられなくなるのはもっと辛いから。
この初恋は、もう終わりにしよう。
-END-
初恋って叶わないから甘酸っぱくて素敵だと思うのは私だけでしょうか。
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