流れ星にならぬよう










 バスに揺られる僕達は、ずっと無言のままだった。





「お前のせいだ!」

 くだらない理由。
 別にあんなボール、大事にしてたわけでもないのに。

「ごめん…、まさかあんなに飛ぶなんて思わなくてさ…。」

 淳也はそう言ってあたふたしてた。

 悪気があったわけじゃないって分かってた。謝られた時に許せば良かったのに。
 何故か苛立ちが込み上げて、言ってはいけない言葉を言ってしまった。

「ふざけんなよ!お前なんかもう友達じゃねぇ!」




 あの時の淳也の顔は、多分死ぬまで忘れられないだろう。




「タカっ…」

 名前を呼ばれたけれど、俺はそれを無視した。



 最悪。最悪だ、俺。










 それからずっと、淳也は俺に話しかけてきたけど、俺は意地になって無視し続けた。

 帰りのバスに乗る頃には、俺達の間に会話は無くなっていた。










***









 ガシャンッ



 ドアが閉まって、バスは出発していった。俺達は家が近かったから、バスを降りてからも帰り道は一緒だった。

 俺がズンズン歩いていくその少し後ろを淳也はついて歩く。

 分かれ道にさしかかった。ここからは別々の道に分かれなければならない。
 俺は黙って自分の家へ向かう道に進む。

「タカッ…!」

 また後ろから呼ばれた。
 俺はそれを無視して歩く。

「…ごめんな。」



 胸が痛かった。






 次の日、淳也は学校を休んだ。何も届け出がないと聞いて、なんだか嫌な予感がした。
 くだらない意地なんて張らないで、素直に謝ろうと思っていたのに。

 ポツンと空いた淳也の席が、余計に俺を不安にさせた。








***








 放課後になっても淳也の事が気になって、とうとう淳也の家まで行ってしまった。
 インターホンを押すと、淳也の母ちゃんが出てきた。

「貴大です。淳也いますか?」
『あら、今日は一緒じゃなかったの?淳也ならまだ学校から帰って来てないわよ。』

 …あいつ、ズル休みしたんだ…。

 淳也は俺の知る限り一度も学校を休んだことはなかった。前に風邪をひいて熱があった時も、「皆勤賞とるんだ」って鼻水垂らしながら学校に来ていた。
 そんな淳也が学校を休んだ。しかもあんな事があった次の日に。

 嫌な予感がちらちらと胸の奥で駆け回っていた。

 俺は淳也を探した。

 よく行くコンビニ、いつもの公園。もしかしたらと思って学校にも行ってみた。

 でも、淳也はどこにもいなかった。
 日は段々と傾いて、辺りを灰色に染めていく。このまま淳也が見つからなくなってしまいそうで怖かった。

 どこにいるんだよ、淳也…。



『ごめんな。』



 ふと昨日の淳也の言葉が頭に浮かんだ。無視する俺に必死に謝っていた淳也。

 まさか…。

 俺は急いでバス停に向かった。昨日の、あの場所へ向かうために。













 バスを降りた頃には、もうすっかり夜になっていた。俺は急いで昨日の広場へ向かう。
 灯りは街灯が近くに1つあるだけで、ほとんど何も見えない。

 冷たい風が汗ばんだ肌を撫でて、辺りの草むらをざわざわと喚かせていた。



 ガサッ



 近くで何かが動く音がした。
 見回すと、少し奥の草むらで白い何かがもぞもぞと動いていた。

「…淳也?」

 俺はおそるおそる話しかけると、白い何かはガバッと顔を上げてこちらをじっと見つめた。その"白い何か"は、まぎれもなく淳也だった。

「タカ…?」

 何で俺が居るのか分からないといった顔で淳也は俺を見ていた。

 淳也の体はひどく汚れていた。真っ白な制服は所々泥がついていて、肌はぐっしょりと汗で濡れている。手は…土汚れなのか何なのかよく分からなかったけど、とにかく汚れてボロボロだった。

「ごめん、タカ…。やっぱ見つかんないや…。」

 言葉を失って固まっている俺に、淳也は申し訳なさそうに謝ってきた。
 その言葉を聞いた時、目の奥がグッと熱くなって、淳也に抱きついた。

「ごめん!淳也、ごめんっ…!」
「えっ?あれ?タカ…どしたの…?」

 淳也の腕が俺の背中の辺りでうろうろしていた。

「ごめん…別にあんなボールどうでも良かったのに…。本当にごめん…。」
「そんな…別にタカが謝ることないじゃん。俺がボール無くしたのが悪いんだしさっ!」
「そんなの別に怒ってない…。本当にごめんな…。」
「いやそんな…」

 ガキみたいに淳也にしがみついて泣く俺を見て、淳也は必死にフォローしてくれた。

「でも良かった。タカと話出来なくなったらどうしようかと思った。」

 淳也の腕が俺の背中をポンポンと撫でる。こうして抱きついているのが何となく恥ずかしくなって、俺はガバッと離れて淳也を見つめた。

「淳也…」
「な、なに…?」

 淳也はごくりと喉を鳴らした。

「寒い。早く帰ろう。」

 淳也はズルッとずっこけた。

「え、あれ?今って何かロマンチックな雰囲気じゃなかった?」

 淳也はポリポリと頭を掻いた。

「何言ってんだよ。帰ろうぜ。」
「あっれー…?…あ!」

 淳也は夜空を見上げて声を上げた。空を見ると、流れ星がいくつも流れていた。

「すっげ…」

 思わず感嘆の声を漏らす。

「そういや、今日ってなんとか流星群が見れるんだっけ。」

 ポツリと淳也が呟く。

「マジ?だからこんなに流れ星があるのか。」

 広い夜空のあちこちで瞬く流れ星は、本当に綺麗だった。

「たしかこれって次に見えるのが何十年も後なんだってさ。…その時も友達でいような、俺達。」
「…何それ、流れ星にお願い?」
「へへっ、どうだろ。」

 そう言って淳也はニカッと笑った。俺もニカッと笑い返した。

「…帰ろっか。」

 俺達は2人並んで歩いた。昨日のように無言ではなく、他愛もない話で笑い合った。





 ありがとう、淳也。

 さっきの言葉、めちゃくちゃ嬉しかった。





 流れ星はすぐに消えてしまうけれど、俺達はずっとずっとこのままでいよう。




 消えることなく輝いていよう。







 俺達はずっと、友達だ。







-END-






名前忘れたけど何とか流星群が見えるっていうから書いてみたSS。
まぁ9割関係ない。




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