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事の発端は辻岡の一言だった。
「俺ん家布団とかねぇんだわ。」
そうか、じゃあ今日は悪いけど床に寝てもらう事になるんだな。ごめん辻岡ありがとう。
心の中で合掌していると、辻岡は僕が寝ているベッドに腰かけた。
「えっ、一緒のベッドで寝るの。」
「当たり前だろが。俺にどこで寝ろって言うんだ。」
「あー、えーと…、床?」
「あほか。」
くぁ、と辻岡は大きな欠伸をして眠そうに目蓋を擦る。
「電気、消すぞ。」
辻岡の言葉と共に、視界が真っ暗になる。僕を壁側に押しやるように、辻岡がベッドに潜り込んできた。
良いって言ってないのに辻岡と同じベッドで寝る事になってしまった(高校男児2人が同じベッドで寝るなんて傍から見たら奇妙な光景だろうな)。
辻岡のベッドはあまり大きく無かった。
辻岡が無駄にでかいせいもあるかもしれないけど、2人で広々眠れる程のスペースは無い。だからしょうがなく、2人とも体を仰向けではなく横向きにして寝るしかなかった。
向かい合うのは恥ずかしいっていうか奇妙すぎるので嫌、かと言って同じ向きになって寝るのも変。結局僕達は背中を合わせて眠る事にした。
背中に感じる辻岡の鼓動は、トクトクと穏やかで心地良い。
体調の良くない僕が眠気に襲われるのに、そう時間はかからなかった。
「………き、…びき。」
声が聞こえる。
夢かな。
「……るか?…ひびき。」
夢にしては音がクリアだ。
この声は、辻岡…?
「…もう寝てんのか。」
その言葉で僕の意識は鮮明になった。でも、気だるい。
瞳は閉じたままだからはっきりとは分からないが、瞼越しに光を感じないと言う事は、朝ではないだろう。部屋の電気すら付いていない。窓の外からは、カサカサと葉っぱの擦れる音が聞こえてくる。
そんな時間に、寝ている病人を起こしてまで何の用があるんだ、辻岡め。
どうせ大した用事でも無いだろうと、僕はそのまま寝た振りをした。意識ははっきりしていても、眠気まで飛んだ訳じゃない。放っておけばすぐにまた眠れるだろう。
ギシッ、とベッドが軋む音がした。背中に感じていた辻岡の体温が離れていく。
「響。」
辻岡の声色は何故だかとても甘い、囁くような声だった。
もしかしたら僕を見下ろしているのかもしれない。すぐ近くに辻岡の気配を感じる。
なんだ、トイレにでも行きたいのか。勝手に1人で行きやがれ。
「…好きだ。」
辻岡の言葉が、静かに部屋に響いた。
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