普通に体を拭かれるだけだった。



 いや、普通じゃない拭かれ方って何って言われたら分からないけど。
 まずは背中や肩とか背面を拭かれて、それから腕とか胸の前面。今はふくらはぎのあたりを拭かれてる。

 その、最初に変な事考えたせいかもしれないけど、

「っひ、」
「……なに変な声出してんだ。」

 くすぐったいわけじゃないんだ。辻岡の手がいやらしい訳でもない。
 だけど、何故か僕は辻岡(が持っているタオル)が触れる度に、なんだかよく分からない声を漏らしてしまう。

 辻岡はそんな僕を笑うでもなく、体を拭き続けてくれた。

 太股を辻岡のタオルが滑る。
 もう、なんか、すごくいたたまれない気持ちになって、僕はぎゅっと目を瞑った。背筋がぞくぞくして、我慢してるのに小さい息が漏れてしまう。

 反対側の足も同じように拭かれて、次は顔だった。
 不意にわしわしと力強く擦られたおかげか、気恥かしさもどこかに飛んで行ってしまう。

「いたいいたい辻岡いたい!」
「そんだけ元気なら堪えれるだろ、おらおら。」

 昼間と同じように乱暴に顔を拭かれて、泣きそうになる。
 これさぁ…皮膚がひりひりして痛いんだよ!

 顔を押さえつける辻岡の手を掴んで引っぺがす。 
 痛いとか何すんだとか色々言いたい事はあったけど、それを口にするのは億劫だったので、僕はただ辻岡を睨んだ。 



「………。」
「……………。」



 何この、沈黙。

 辻岡の瞳が僕を捉えて動かない。いつものヘラヘラした目じゃない。
 見た事の無い辻岡が、僕の事をジッと見つめていた。

「……なんだその顔。こっちも俺に拭いて欲しいのか?ん?」

 急に表情が砕けたかと思うと、辻岡はオヤジみたいにニヤニヤしながら僕の股間を「こっち」と指差す。

「ばっ…ばかか!んなわけないだろ!」

 辻岡の手からタオルを奪い取って、自分の股間に手を持っていく。

「…いや、やっぱいいや。人の家のタオルで股拭くのってなんか悪いし。」
「あ?そんなもん気にするなよ。もし俺ん家で風呂借りたら、俺ん家のタオルで全身拭くだろうが。」

 「一緒だよ、一緒。」そう言って辻岡は床に落ちていた雑誌を読み始めた。

 わ、分かった。じゃあお言葉に甘えてタオルを使わせてもらう。けど、けど…、

「あ、あの、辻岡…ちょっと出て行ってくれない?」
「は?なんで。」
「なんでって…、は、恥ずかしいだろ普通に考えて!」
「恥ずかしいかぁ?別に男同士だし、俺は全然恥ずかしくな「僕が恥ずかしいんだよっ!」

 辻岡はばつの悪そうな顔をすると、頭を掻きながら部屋を出て行った。




 今日は厄日だ。
 
 皆の前で脱がされるし、熱は出すし、辻岡の前でパンツ一丁にさせられたし。

 肌を這うタオルの感触が蘇る。

 ぶんぶんと首を振ってその記憶をかき消した。


 全部辻岡のせいだ。

 辻岡の、ばか野郎。











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