無防備な後ろ姿。

 後ろ髪と、制服の襟の間から見えるうなじが物凄く色っぽい。
 いやもう色っぽいとか言うレベルじゃないね。凶器だあれは。

 呆けたように窓の外を見つめている城野の後ろにそっと忍び寄る。
 
 真後ろに立ってもまだ城野は気付いていないようだ。
 その鈍感さに満面の笑みを浮かべて、俺は城野の耳元に勢いよく息を吹きかける。

フッ!

「ひょあっ!?」

 ガタンと派手な音を立てて文字通り城野は跳ねあがった。跳ねすぎて膝を机の裏にぶつけたらしく、恨めしそうな目で俺を見ていた。

「藤尾ぉ…。」
「おはよ、城野。」
「…………はょ。」

 「はょ。」だって!うっは、可愛い。

「今日も朝からエロいな。」

 耳元でぼそっと囁けば、真っ赤な顔して「どこがだよっ!」って言う。


 そんな城野が可愛くて、俺は今日も朝から城野をからかう事を止められない。















続・変態のススメ















「城野、今日放課後俺ん家来いよ。」
「ブッ!」

 城野は飲みかけの牛乳を盛大に吹いた。
 あんまり勢いよく吐き出したもんだから、向かいの奴の顔面にかかってやんの。

「城野ぉぉぉお!!てめっ、なにしやがんだああああああっ!」
「うわぁあ、ごめんっ!わざとじゃないんだ!」
「ったりめーだボケ!ちょっと来い一発殴らせろっ」
「そ、それは勘弁っ!」

 給食時間だってのにぱたぱたと追っかけっこ。

 捕まって首絞められてじたばたしてる城野見て悦に浸ってる俺って相当重症だと思う。
 


「藤尾が変な事言うから……。」

 首をさすりながら戻ってきた城野は眉間にしわを寄せて俺の事を睨んだけど、俺が笑い返してやるとほっぺた赤くして無言で残りの給食にがっつき始めた。

 城野俺の事大好きだもんなー?俺の笑った顔が好きってこの前言ってたもんなー?

 これくらいでそんな可愛い態度見せてくれるなら、いくらでも笑ってやるよ。

 俺だって城野に負けない位城野の事好きなんだからな。













***












 城野が学校でとても人様には言えない様な事をした日から1ヶ月。

 んでもって俺と初めてちゅっちゅいちゃいちゃした日から1ヶ月。

 そして俺達が付き合い始めて1ヶ月。

「だぞっ!城野!」
「えっ、何?」

 もう記念に記念すべき1ヶ月記念日の今日、俺の愛しの城野は、

 俺のベッドの上でガッチガチに身体を固くしておりました。



「ご、ごめん…聞いてなかった…。何…?」
「あーいや、別に何も言ってなかったし。」
「あ、そ、そう………」

 質問の内容なんて全然頭に入ってない感じで、体とか指とか首がそわそわそわそわ堪えず動いてる。

 もう、挙動不審としか言えない。

「城野さぁ、いい加減初めてじゃないのに未だに緊張すんの?」
「ふっ、ぇっ?」

 もうなんか喋りかけるのが可哀そうになる位青ざめた城野の顔。

 まぁ、そんなとこも可愛いんだけども。

「今日なんて、もう何回目?えーっと今まで週4ペースだったから…「ぅ、うわーっ!うわーっ!数えなくていいからっ!」え、なんで?」

 指折りながら城野のあんな姿やこんな姿を思い返していたのに、城野に全力で阻止される。
 あんまり必死だったから、ちょっと意地悪したくなってきた。

「それに普通にした事もほとんど無いし。2回目は青姦で3回目はコスプレで」
「やっ、やめて…それ以上言わないで…」
「この前の海でヤッたのは案外気持ち良かったなぁ。」
「ほ、ホントに……恥ずかしくて死んじゃうから、やめてってば…」

 両手で耳を塞いで、真っ赤になる城野。


 うわぁ可愛いもうやばいまじで今すぐ食いたい。

 のを、ぐっと我慢。


「始めたらすぐノリノリになんのに、なんで毎回恥ずかしがんの。」
「ノ、ノリノリとか…なってない…し…」
「またまた。」

 すっと城野との距離を詰める。軋むベッド。
 股間に手を当てると、服越しでも少し熱を帯びているのが分かった。

「期待してるだろ?」

 もうこの時点で顔真っ赤。ちょっと突いたら血管切れそう。

 黙って俯くのとか、もうホント可愛くて可愛くて。
 今すぐ丸裸にして体中舐め回してあんあん言わせたい……が!

 今日は1ヶ月記念日だし、やっぱり記念になるようなプレイをしないとな!そのために色々数日前から用意したんだからな!

「でも、今日はシてやんねぇ。」
「えっ…?」

 恥ずかしがってたくせに、こう言うと残念そうな顔する。嘘付けない奴だなー城野は。

「今日はいつもと違う事する!やっぱりエッチがマンネリになるのは駄目だと思うんだ。」
「…今の所マンネリ化する要素無いじゃん。毎回アブノーマルじゃん。」
「まぁまぁ。」

 ぼやく城野の肩に手を置いて、満面の笑みで言い放つ。

「とりあえず素っ裸なれ。」
「…へ?」
「あー、靴下だけはそのまま着用すること。」
「え、え?」
「ぐずぐずしてないでさっさと脱げぇ!」
「う、うわぁああっ!」

 手際良く制服を脱がせていく。
 じたばた暴れているけどそんなん関係ありません。
 
「な、なんで靴下だけ…」
「ん?俺が燃えるから。」
「……へんたい。」
「はいはい。」

 見事に靴下だけになった城野。
 何回も言うけど可愛すぎる。鼻血出るよ鼻血。

「でわぁ、これから1ヶ月記念プレイをしたいとー思いまーす。」
「………。」
「じゃ、はいこれ。」

 ベッドの下から隠していたものを取り出して、城野に渡す。

「……なにこれ。」
「オナホ!」

 瞬間、城野の顔がまた赤くなる。

 ほんとよく顔赤くなんなぁー。可愛いけど大丈夫なのかな、血圧とか?

「こ、これ…」
「これってば手に入れるのちょー大変だったんだからな。俺に感謝しろよ。」
「う、うん………っじゃなくて、これで何する気だよ!?」
「何って…城野のオナニー見るの。」
「はぁあ…!?」

 俺の考えた記念日プレイは、原点回帰って事で。

 ある意味これが無けりゃ俺達付き合う事も無かったよねっていう事実をありがたーく思い出すために、城野にオナニーしてもらう事にしました。

「い、嫌だ…!」
「なんでぇ」
「恥ずかしすぎるだろっ!なんで俺だけ…」
「しかも今回はオプション付きでして、」
「聞けよ!」

 更に取り出したのは、目隠し。

 結構本格的なやつね。隙間とかないし、透けて見えたりもしないし。
 ホントに視界真っ暗になんの、これ。

 有無を言わさず城野に装着。

「うわぁ!」
「何も見えないっしょ。」
「うん見えない…じゃなくて」
「俺は、全力で城野の事感じさせるから、自分でイッてみて。」

 耳元で囁くと、城野の喉がゴクリと鳴った。
 
 なんだかんだ城野エッチ大好きだもんな。今日もいっぱいイかせてやるよ。













***













 藤尾の息が、首筋に当たる。

 何も見えないせいなのかな。たったそれだけで皮膚が焼けるように熱くなった気がした。






 ホント訳分かんない。

 いきなり脱がされて、目隠しされて、挙句の果てに「オナニーして。」とか。

 藤尾ってホントに、変態だ。

「城野。」
「んっ、うぅ…」

 ふっと、耳に吹きかけられる息。
 昼間と同じ行為のはずなのに、凄くエッチな事してるように感じる。

 俺の息子はこんな状況でも元気だ。こんな状況だからかもしれない。

「最初だけ、手伝うから。」

 冷たくてねっとりした液体が、俺の乳首とかお腹にゆっくり垂れていく。多分ローションだ。
 そして這うように、俺の息子にもかけられる。

 藤尾の手が、それを馴染ませるように何度か俺のを扱いた。
 それだけでイキそうになっちゃった俺。お、俺こんなに…早漏だったっけ…。

「入れるから、城野もちゃんと持ってろよ。」

 オナホをギュッと握らされて、その上から藤尾の手が重なる。
 そしてそのままゆっくり、俺の息子を飲みこませるように移動させ始めた。

「う、あぁ…っ!」
「きもちい?」

 コクコクと頷くと、藤尾は満足そうな息を漏らして、オナホを再び動かし始める。

 根元までぐっぽり嵌ると、藤尾の手が離れた。

 ベッドに腰かけていた俺を後ろから抱えるような体勢に動き直した藤尾は、「自分で動かせよ。」とか言いながら俺の後頭部に何度もキスし始めた。




 ゆっくりと、オナホを上下にスライドさせる。

 ローションのおかげか滑りは良くて、締め付けるような初めての感覚に俺は戸惑うばかりだった。


 いつもは、その、男としてどうかと思うけど、俺が挿れられる側だったから、こういうのは初めてで。
 藤尾は俺の中でこんな風に気持ち良くなってるのかなって考えたら、凄く興奮した。

「んっ…、んぅ……っ」

 一生懸命オナホを動かしていると、それまで俺の身体に触れてこなかった藤尾の手がゆっくりと俺の肌に触れた。

 何も見えないから、その分他の感覚が敏感になっているのかもしれない。
 ただ触られただけなのに、物凄く下半身にキた。
 
 藤尾の手は、腰の辺りからゆっくりと上に上がってくる。

 お腹、脇腹、そして乳首…には直接触れてこない。
 周りを、くすぐるように指先で這うだけ。

 でもそれだけでも気持ちいい。

 これだけでもゾクゾク来て余裕無いのに、今度は耳まで攻められた。

 藤尾の舌が耳の外側をツゥっと這う。
 そしてそのまま甘噛みされる。

 おっ、俺…耳、弱かったんだぁ…。

 性器を直接触られた訳でもないのに、この感覚。

 腰が抜けそうな快感に、耳が熱くなる。

「城野、耳真っ赤になってんぞ。」

 耳元で藤尾の声がして、今度は耳の中に舌が入り込んできた。

「ふじっ、おが…変な事……ひゃっ、ぅ…するから……っ!」

 耳ばっか弄ってくる。

 舐めて、噛んで、時々息が当たる。
 その度に身体はビクッと震えて、力が抜けた。

「休んでないで、ほら頑張って動かして。」

 胸の辺りを這っていた指が、太股の内側を撫でる。

 やっぱり一番感じる所は触れてくれない。
 た、玉とか、いつもなら嫌ってくらいまさぐってくるのに、今日はわざと焦らす様に離れた場所をゆるゆると刺激してくるだけだった。

「あっ、はぁっ…は……っ」
「城野、かわいー。」

 この快感が、ただオナホに刺激されて感じているものなのか、それとも別の何かなのか、俺には分からなかった。

 言えるのは、自分で弄った中で一番気持ちイイって事だけ。

 
 でも、今一つ刺激が足りない。

 今でも十分気持ちいい。藤尾の指とか、耳から来る刺激とか、ホントもう腰砕け状態だ。

 だけどそれはなんていうか、心が気持ちいいって言えばいいのかな。
 射精するのとは違う、別の快感だった。

 そうじゃなくて、今欲しいのは、もっと物理的な快感。

 
 
 藤尾に、触って欲しい。



「ふじ、ぉ……っ」
「ん?」
「ぉ、ねがい……ちゃんと、さわっ、て…」
「触ってるよー。」

 相変わらず触れるのは焦れるような場所ばっかり。

「ちが、くて…もっと…」
「城野。」

 ツン、と、腰のあたりに固い物が当たる。

 それが何か、何て聞かなくても分かる。今はそれが、物凄く…欲しい。

「ちゃんと自分でイけたら、あげるよ。」
「……ほん、と…?」
「嫌って言ってもイカせまくってあげる。城野が気絶しちゃうまで何度でも気持ち良くしてあげるよ。」

 藤尾の声が、鼓膜を伝って脳みそを刺激する。

 痺れるような甘い言葉が、俺の何かをプツリと切った。

「……っは、ぅあっ……き、もちぃ……!」

 オナホを激しく上下させる。

 グチュグチュと卑猥な音が部屋中に響いて、それがまた俺の感覚を煽った。

「っは、城野、ホント……早くイッてな。俺そろそろ我慢できない。」

 そう言って藤尾は俺の首筋に噛みついた。

 噛むって言っても甘噛みなんだけど、そのゆるい刺激は十分に下半身に届く。

「うぅっ……」

 狼とかに食べられる動物って、こんな風に感じるのかな。

 …そんな訳ないか。

 こんなに、気持ちいいんだから。


 ゾクゾクと、背筋を這いあがってくる快感。
 火が点いたように熱くなる身体。

「イ、きそ……っ!」
「俺の事考えてイッて。俺の名前呼んでよ。」
「っは、ぁ……い…、ふじ、おっ…ふじおっ…!」

 オナホをギュッと握りしめて、快感を最高潮まで高める。

 名前を呼ぶのと同時に抱きしめてきた藤尾の腕も、燃えるように熱かった。

「イくっ…、イッちゃ…ぅ、ぁ……あーっ、あぁー……っ!」

 ビュクッビュクッと、今まで出した事も無いような量の精液が、オナホの中に吐き出される。

 意識が飛んでしまいそうな白い快感が、俺を捉えて離さない。

 命一杯オナホに深く腰を打ちつけて、最後の一滴まで射精した。

「っは、っはぁ、はぁ……っ」
「いっぱい出したな。気持ち良かった?」

 オナホからドロリと垂れた俺の精液を眺めながら、藤尾は嬉しそうに呟いた。

「………うん…。」

 肩で息をしながら、正直に答える。

 オナニーでこんなに体力使ったのなんて、生まれて初めてだった。

「そっか。…じゃあ今度は俺が気持ち良くしてやるよ。」
「へっ?」

 藤尾は俺をベッドに寝かせると、足の間に身体を入れて戦闘態勢に入った。

「ちょ、待って…っ、少し…休憩…」
「嫌って言ってもシテやるっつったろ?」
「んなっ…!」

 まだ目隠しされてるから見えないけど、物凄く満面の笑みを浮かべた藤尾の顔が脳裏に浮かんだ。

 こうなったらどうせ何言っても止まらないんだ。

 無駄な言い合いで体力を消耗してしまわないように、俺は口をつぐんだ。

 それに、俺のお尻に当てられた藤尾のビンビンになった息子の事考えたら、俺の息子さんもまた頭をもたげ始めたんだ。

「あ、城野もう元気なってやんの。」
「うるさい。誰のせいだよ。」

 そう言って、俺達は同時に笑いだす。







「「ホント、お前って変態だな!」」








-END-





またもや本番前終了。

会話文連続させすぎた気がするけど…まぁいっか。



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