食えないアイツ










 これで何回目だろう。




「キヨ。」
「んー?」
「俺好きな奴できた。」
「…は?」

 俺の隣でニシシと笑う凛。
 俺の反応を心底楽しそうに見てやがる。悪趣味なヤローだ。

「どう?」
「…どうって、何が。」
「ヤキモチ妬いた?」
「誰が。」

 俺がそう言うと凛はぷくっと頬を膨らませた。
 「つまんねー」とか言いながら、道端に生えたススキをぶちぶちと抜いて行く。

 放課後の帰り道。
 季節は冬に足を突っ込みかけた秋。そろそろマフラーが欲しいかも、なんて思い始める季節。
 夕焼けがススキとか道とか俺達とかをオレンジ色に染める。

 気温とか、風景とか、そういった周りの環境は変わっていくのに、こいつはいつでも変わらない。
 俺の隣で楽しそうに笑いながら、俺の事からかうんだ。






















『凛。』
『なにー?』
『好きだ。』
『おれも好きだよ―。』
『え、違、そんな軽いやつじゃなくて。』
『?』

 あれはいつだっけ。
 まだ高校には入学していなかった。
 
 俺達はまだ中学生で、恋愛とか付き合うとかそういうのはまだお互い未経験で。
 誰よりも近くに居たから、凛に彼女がいない事は分かってた。

『キヨ?』
『…!えっと、だから!』

 その日俺達はいつも通り遊んでただけで。
 普通に俺の家でお菓子食いながらゲームしながら、だらだらと喋って1日が終わるはずだった。

 いつも通りの1日になる、はずだった。

 キョトンとした顔で俺の事を見る凛の視線が痛くて、まともに顔を合わせられないまま俺は黙りこんでしまった。

『は…』

 ようやく意味を察したのか、凛の顔は一気に赤くなってそのまま顔を伏せてしまった。
 俺もつられて赤くなる。

 っていうか、言っちまった。言っちまった。

 そんなつもりなかったのに。全然言うつもりなんて無かったのに。

 今までは誰よりも近くに居たけれど、明日からはもう無理だな。いや、今からもう無理だ。

 今すぐここから逃げ出したい。
 あぁ、ここが俺の家じゃなかったら今すぐ帰るのに。
 
 気まずい沈黙。
 
 先に口を開いたのは、凛。

『キ、キヨ…からかうなよ…。』
『…俺は本気だ。』 

 ここで「冗談だ」なんて言えばまだ大丈夫だったかもしれないのに、その時の俺はそんな事考える余裕とか無くて。
 もう言っちゃったからどうにでもなれって感じで、半分ヤケになっていた。

『…俺、帰る。』

 まぁ、当然だよな。
 
 よろよろと部屋を出ていく凛の背中を見る事も出来ずに、俺は膝を抱えた。
 終わった。ちくしょー…。
 明日から、多分話もできないな。




















 なんて思ってたのに、凛は次の日も、その次の日も、今までと同じように俺に接してきた。

 1つだけ変わったのは、俺達の間で「恋バナ」が交わされるようになった事。
 つっても凛が一方的に好きになった奴の話をするだけなんだけど、これってどういう意味なんだろう。

 俺への嫌がらせ?心の中では気持ち悪いって思ってる?

 凛が考えてる事なんて全然何にも全く分からなかった。
 誰よりも近くに居たはずだったのに、凛の考えてる事も分からないなんて。

 



 今日も凛は俺の隣を歩く。いつも通り。 

「なぁ、キヨ。」
「ん?」
「どうしたらヤキモチ妬く?」
「妬かねーよ。」
「ふーん。」

 俺の数歩先をト、ト、と跳ねながら歩く凛。

「キヨ―っ!」

 気付けば俺の家の前。凛の家はもっと向こうだから、ここでお別れ。

 高校に入学した今でもずっと凛とはツレだけど、未だに凛の考えてる事は分からない。

「俺好きな奴いるんだからな!」

 大声あげて言う事でもないだろう。さっき聞いたし。



 でも、どうしてだろう。

 凛の言葉が、俺の事言ってんじゃないかって思うのは、




 ガシガシと頭を掻く。

「キヨ―!」

 道の向こう、点になった凛。

「バーカッ!」

 あっかんべーをして走り去っていくその後ろ姿を茫然としながら見つめる。





 そう思うのは、自惚れだよなぁ…。






-END-
 





 性格が攻めな受けって可愛い。と、思うんだけど凛はそれっぽくならなかったorz

 無念。





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