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「ゔー……」
「喋るなって。喉痛いんだろ。」
「ゔん…だけどさぁ…」
「はいはい黙って黙って。」
「んむ、ぐぅ。」
続きを言おうとした口を手のひらで塞がれる。
その後俺のおでこをぺちっと軽く叩いて、進士はベッドから離れた。
うー、喉痛い、頭痛い、気分悪い。
風邪引いたーっ!
声変わり
「喉が痛いぃ?」
今日の朝。
なんだか喉がイガイガするなぁと思って朝飯食ってる進士に話したら、凄く面倒臭そうな顔をされた。
「え、なにその顔。」
「…風邪引くなよ。面倒臭いから。」
「引く訳ないじゃん!俺元気だけが取り柄だぜっ!?」
そう言ってあまり無い力こぶを作って見せる。
進士はそんな俺を鼻で笑って、「だといいけどな。」って言って飯を食うのを再開した。
俺も進士の前に座って、箸に手を伸ばす。
両手を合わせて「頂きます。」と言えば、「残すなよ。」と進士が言う。
これが俺達の毎朝の光景だった。
俺の高校は全寮制なんだけど、少し変わってる。
2人で一部屋ってのは、まぁ結構あるのかも知れないけど。俺の寮には食堂が無い。
普通、寮って言ったら食堂がついてて、飯は皆で食べるって感じなんだろうけど、俺の寮には部屋に簡素なキッチンがついてるだけで、食堂なんてのは存在しない。
高校が経費削減とかで寮に食堂は作らなかったらしい。
どんだけケチなんだよ。
学校には食堂があるから、学校がある日は昼食の心配はしなくていいんだけど、朝と夜、それと休日は自分達で食事を準備しないといけない。
しがない高校生に毎日外食する程の小遣いがある訳も無くて。
親の仕送りとしょぼいバイト代でどーにかこーにか日々の生活をやりくりしているのであります。
「あ、魚おいしい。」
「あたりめーだ。」
進士は料理が上手い。
ビックリするくらい凄い料理を作れるってわけじゃないけど、こうやって朝や夜に作ってくれる見た目質素なご飯は、味付けがしっかりされていて凄くおいしい。
今日も朝から美味しい焼き魚を食べれて、俺の頬はゆるむ。
喉が痛いせいでちょっと味が変に感じるのが残念だったけど、まぁしょうがない。
今日ぐっすり寝れば下には調子も戻るだろうし。
「ごちそうさまー。」
「ちゃんと水に浸けろよ。」
「わかってるって。毎日言わなくても大丈夫だよっ。」
「言わなかったら水にも浸けないで、そこらへんに置きっぱなしにするのはどこのどいつだろうな。」
「う。」
「しかも俺が皿洗いのときにばっかり忘れるのは誰だっけなぁ?」
「うぅ…。」
そ、それは確かにそうだったけど…。
さ、最近は忘れてないし!…多分。
「辰樹、まだ?」
「待って、まだ制服着てない…ッ!」
「遅刻するぞ。先行くからな。」
「待ってー!!」
ぱたぱたとネクタイもちゃんと締められないまま、俺は進士と一緒に部屋を出た。
いつもよりも10分遅く出たせいか、同じように通学のために部屋を出た同級生達で溢れかえっているはずの部屋の前の廊下には誰も居なかった。
「ったく、お前が準備遅いから。」
「だ、だって…。」
「あーうっさいうっさい。ほら、急ぐぞ。」
「はーい…。」
重たいリュックを背負って、学校へと向かう。
雲一つない快晴の空で、太陽がはち切れんばかりに俺達を照らしていた。
***
「あ゙ー。」
「結局風邪引いてんじゃねえか馬鹿野郎。」
タオルケットにくるまって、俺は机に突っ伏していた。
「のどい゙だい゙。」
「喋るな。」
目の前に置かれるマグカップに入ったホットミルク。
ふうふうと湯気を飛ばして一口飲むと、ふんわりと甘さが口の中に広がった。
「喉、痛むか?」
心配そうな顔で進士は俺の正面に座った。
「ん゙、ちょっと。」
「…結構声変わってるな。」
「え、まじ?自分ではあんまり分かんないんだけど。」
「今日は早く寝ろよ。」
俺の頭をぽんぽんと叩くと、進士は勉強道具を机の上に広げ始めた。
あ、そっか。今日一日中ぼーっとしてたから忘れてたけど、明日テストなんだっけ。
「俺も゙、やる…。」
「は?バカ、何言ってんだ。寝てろよ。」
のっそりと立ち上がると進士も立ち上がった。
「だっで明日テスト。」
「風邪こじらせて酷くなったらどうすんだ。」
そう言うと進士は俺の膝裏に手を掛けて、ぐいっと俺を持ち上げた。
「へぁっ!?」
びっくりして変な声出た。
「寝てろって。」
進士は俺をベッドまで運んで、布団を掛けてくれた。
俺達の部屋にはベッドが1つしかなくて、高校生男子が2人で寝るのも変だし、いつもは1日交替で床布団と交互に寝ていた。
昨日は俺がベッドで寝たから、今日は進士がベッドのはずなのに。
「進士、ベッド…」
「あぁ?…んなもんどうでもいいだろ。しっかり休め。」
そう言うと進士は部屋の電気を消した。
寮の構造はワンルームだから、電気を消すと部屋の中が真っ暗になる。
進士は机の傍にライトスタンドを寄せて、小さな明かりで勉強を始めた。
「進士、電気点けていいよ。」
「大丈夫。俺の事は気にすんな。」
進士は困ったような顔で俺の事を見た。
そんな顔されたら俺も強く言えなくて、大人しく布団を被った。
「進士、おやすみ。」
「あぁ、おやすみ。」
ぶっきらぼうだけど、ホントは優しい。
進士は良い奴だ。
喉の痛みと闘いながら、俺は静かに瞼を閉じた。
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