臨也はちょっと前に事故にあっていて所々記憶がはっきりしていない
最後はハッピーエンド
『ぜったい…ぜーったいまたあおうね!』
『つぎあうときおれたちはせーしきにこいびとどうしになるんだからなっ!』
『ゆーびりげんまん、うーそついたらはりせんぼんのーます…』
あの約束をしたのはいつだったろうか。約束の内容も、相手もはっきりとわからない…
***
高校の入学式。俺は小さい時に引っ越して以来の池袋に来た。特別池袋に思い出があったというわけでもないのにここ戻ってきた。それも、あの約束が果たされるまで俺はここにいなければいけないような気がしたからだった。
「なんでこの学校選んだんだろう…なにもかも普通だ。普通すぎる!つまらない!」
高校の入学式。知り合いなどいるはずもなく、俺は1人でいた。
別に1人でいるのは慣れているし、嫌いではないから気にはしていないが…やはりつまらない。
何でもいいから面白いものが無いかと俺は辺りを見渡してみた。
「…ん?」
その時、人込みの中で長身で金髪という目立つ男を見つけた。あの男…どこかで見覚えがある気が…そう思ってこっそり近寄って顔を見てみた。この顔は確か池袋最凶と言われている平和島静雄…だったかな?
あぁ、だから見覚えがあった気がしたんだな。
そう1人納得して平和島という男を観察する事にした。
「…強い…」
入学式だというのに平和島静雄に喧嘩を売る不良達。静雄はそいつらを次々と倒していった。
「だから暴力は嫌いなんだ…」
あっと言う間に全員を倒した平和島静雄は、深呼吸すると寂しそうに自分の手を見て呟いた。
「なんで?」
「っ!?」
だから暴力が嫌い…それを聞いた俺は我慢できずに直接話しかけた。そんなに強いのにどうして暴力が嫌いなのか…理由が知りたかった。
「あぁごめん。驚かせちゃった?君…平和島静雄くんだよね?」
「あ?んで俺の名前知ってんだよ?」
平和島静雄は、見ず知らずの俺に名前を当てられて少し困惑した表情をしている。だが俺からしてみると、見ず知らずの奴に名前を知られていて困惑するなど、今更だと思う。
「君、池袋じゃ有名じゃない!」
「…そうか…で、なんだよ?」
だって…池袋最凶と呼ばれているほどの人間の名前が広がっていない訳がない。
俺が池袋じゃ有名だと言うと、平和島静雄は少し傷付いたような、苦しそうな表情をした。
「なんで暴力が嫌いなの?」
「それは…」
「それは?」
単刀直入に暴力が嫌いな理由を聞くと、少し言葉に詰まりながら目を逸らすように横を向いた。
「っ…誰にも言うんじゃねぇよ……いつか、いつか自分の手で大切な物を傷付けちまうんじゃねぇかって…失っちまうんじゃねぇかって…思ってるんだよ。だから…っ」
「なんでそう思うわけ?」
平和島静雄の桁外れの力は、他人には無い自分だけの特別なモノではないか。どうしてその力を利用しようと思わないのか…正直俺には分からない。
「いや、あの、な…見ず知らずの手前に言うのもどうかと思うが……俺が小さい時の話なんだけど…すっげぇ好きだった奴がよ、突然引っ越しちまったんだ。そいつが引っ越す事が決まった前日に俺は喧嘩をしてたくさんの奴に怪我を負わせちまったんだよ…もちろんその好きだった奴は怪我とかしてなかったけどよ、きっとその話を聞いたそいつの両親が俺から自分の子を守るために引っ越しを決意したんだと思うんだよ…だから暴力は嫌いなんだ」
「…じゃあ暴力ふるわなければいいんじゃないの?」
平和島静雄が暴力を嫌う理由、俺が思っていた事よりもずっと深刻な理由だった。
しかしなぜだろうか…この話、知っているような…
「俺、短気でよ…すぐキレちまうんだよ……ってなんで手前はそんなに聞いて来るんだ?」
「俺なんだかシズちゃんに興味もっちゃったみたいなんだ。あはっ、ごめんね…迷惑だった?」
「いや、別に迷惑じゃねぇけど…今俺の事なんて言った?」
迷惑に思われていなくて少し安心した。それにしてもどうして俺はこんなにシズちゃんに興味をもってしまったのだろうか?
「え?…シズちゃん…」
「シズ……ちゃん?なんでシズちゃんなんだ?」
「えぇっ?…ふと頭に浮かんだからだけど……うん?昔そんなあだ名の奴いたような…?」
たまたまひらめいた『シズちゃん』と言うあだ名。どうしてそのあだ名なのかを追求されて、俺は返事に困ってしまった。
「…もしかして手前…臨也って名前か?」
「そうだけど?…なんで知ってるのかは疑問だけど、俺は折原臨也。この学校入るために新宿から引っ越してきたけど、昔は池袋に住んでたんだよ!」
どうして俺の名前を知ってるんだ!?
なぜ知っているのか追及したい所だがここは軽く流して、取りあえず簡単な自己紹介をした。
「臨也…絶対にまた会おうねっていう約束した覚えねぇか?」
「……え?」
「昔だよ!池袋に住んでいた時にそんな約束した覚えねぇか?」
絶対にまた会おう……約束……───っ、まさか!!
その瞬間、事故であやふやになっていた記憶が繋がった。
そうだ、シズちゃんが…シズちゃんが約束のあの子だ…俺がずっとずっと好きだった人。約束をした日からずっと想い続けた人…
「…あ…え、シズちゃんって…もしかして…」
「あぁそうだ。思い出したか?」
さっきまで大勢と喧嘩していたとは思えない、高校生らしい爽やかな笑顔でシズちゃんは笑いかけてきた。
そんなシズちゃんの笑顔がただただ眩しくて…
「俺…てっきりあの約束の相手はあんな昔の約束を忘れてると思ってたよ」
「忘れるわけねぇだろ?俺は本気で手前に惚れてたんだ。ガキの頃だって今までだって、いつだって本気だった一度は離れ離れになっちまったけど、池袋にいたらいつか約束の相手が会いに戻ってきてくれるんじゃないかって、いつもいつも思ってた」
その一言一言がすごく嬉しくて…
「なんか照れるな…俺とほぼ同じ考えだよ…」
「え!な…っ、マジかよ…」
驚きつつも赤くした顔を手で隠しているシズちゃんが、どうしようもなく愛しく感じられた。
「えーっ…と、とにかく……また会えた…っ…約束…守れたね、シズちゃん」
「…あぁ、戻ってきてくれてありがとうな」
本当に信じられない。約束の相手…シズちゃんがずっとあの約束を覚えていてくれた事が、ずっと俺の事を好きでいてくらた事が…
「ずっと好きだった…これからもずっと好きでいられる自信ある。シズちゃん…会えて本当に嬉しい…っ!」
「俺もだ…もう放さねぇからな…」
その瞬間、俺たちの何年も前の約束が果たされた……―――。
指切り
指切りしてるちっちゃい2人可愛くないですか?