シズイザ前提新臨
切ない話






ピンポーン

玄関のチャイムがなったのは午後7時30分をまわった頃だった。


「はいはーい」


こんな時間に誰かが訪ねてくるなんて珍しい。急患かなと思いながらドアを開けた。


「あれ?どうしたの?」

「新羅…ちょっといい?」


ドアを開けるとそこには見慣れた顔が、臨也が立っていた。


「いいけど取りあえず中入りなよ」

「うん…」


玄関で立ち話もどうかと思い、臨也を家の中に招き入れた。


「で、なにかあったのかい?顔色が優れないようだけど…」


白くて細いためもともと弱そうに見える臨也が今日は余計に弱って見えた。


「なにかあったってわけじゃないんだけど…ただ…不安なんだよ」

「不安?」

「そう、不安。そのせいで寝れないんだ。顔色が良くないのは寝不足のせい。だから新羅に睡眠薬でも貰おうかと思って」


臨也が眠れなくなるほどの不安とは一体何なのだろう?


「薬をあげる事はできるけど、薬よりも眠れない原因の不安をどうにかする方がいい
よ。僕で良ければ相談にのるよ」

「うん…そうだよね。ありがとう新羅。実は……」



***



「なるほど…」

「ははっ、自分でも馬鹿ばかしいと思うよ」


顔を引きつらせて笑っている…どう見ても無理して笑っている顔だ。


「つまりまとめてみると、臨也は静雄が好きすぎて自分ばかりが好きなんじゃないか、もう俺なんて好きじゃないんじゃないかって思ってしまって眠れないって事だね?」

「うん」

「静雄は臨也がこんな事を思ってるって知っているのかい?」


知っていたらここまで悩まないだろう。

分かってはいたが口が勝手に動いてしまっていた。


「ううん、知らない。言ってしまったら気持ちが重いって思われて嫌われるんじゃないかって思って…」

「そっか」

「もう俺どうすればいいのかわかんないよ…」


どうして…どうして静雄なんだ?僕の方が昔から臨也の事…っ!僕なら臨也をこんな不安にさせないのに!

叫びたい気持ちを抑えて静かに言った。


「……僕は…僕は静雄に話すべきなんじゃないかと思うよ」

「どうして?嫌われるかもしれないのに?そんなリスクを冒してまで言う意味なんてあるの?」


わからない


「臨也は自分ばっかり好きなんじゃないかって思い込んでいるだろう?静雄だって同じ気持ちかもしれないじゃないか」


僕は一体何を期待している?


「そんなわけ…いつも俺が話しかけてもこっち向いてくれない…冷たいんだもん…同じ気持ちのわけないじゃん」

「それは静雄なりの照れ隠しなんじゃないかい?」


僕は一体何をしている?


「てれ…かくし?」

「そう。だってあの静雄だよ?その可能性が無いと言い切れないだろう?」

「それは…まぁ…」

「ね?だから伝えてみたらどう?」


僕は一体何がしたい?


「でももし違ったら…」

「臨也は本当の事を言って嫌われるのと自分を偽り続けるのとどっちが嫌?」


もう何もわからない。完全に自分を見失っていた――――。


「偽り続けるのも嫌だけど嫌われるのも嫌。けど、強いて言うなら偽り続ける方が嫌だ。そんなの自分じゃない……わかった。伝えてみるよ」


漸く話す決心がついたようだ。

全く、いつからこんなにお人好しになったのかな?


「取りあえず今は即効性のある睡眠薬をあげるから寝たらどう?落ち着いてから言った方がいいだろう?」

「ん、ありがと。そうするよ」

「じゃあ僕はいくね。ゆっくり休むんだよ」


部屋からでてしばらく考えてから携帯を取り出し、臨也に気付かれないように電話をかけるために自分の部屋に向かった。




「もしもし?…静雄かい?」




***



『新羅、教えてくれてありがとな。』

「いいよ、だからもう臨也を不安にさせないであげて」


不安がる臨也の顔なんて見ていられない。不安にさせたくない。僕にどうこうできる事ではないのだけれど…


『あぁ』

「静雄は臨也が求めているたった一人の人間なんだから…」



臨也が求めているのは僕じゃない。静雄なんだ…


分かっていても胸が苦しくなる。


『…新羅?なんかあったのか?』


心の中で思っていたつもりが、口に出して言っていたようだ。


「え!?ぁ……なんでもないよ!じゃ、じゃあね!」

『?…おう』


慌てて電話を切り、臨也が眠っている部屋に移動した。


「気持ち良さそうに寝てる、良かった…」


ベッドの上でグッスリと眠っている臨也をみて安心した。

僕が静雄に臨也が不安がってるって電話をするなんて…ははっ、こんな事して辛いのは自分自身だというのに…


「…僕が君に好意を抱いているという事を伝える事はないけど、これからも友人として頼りにしてよね…側にいてよね、臨也…っ」


そう言って寝ている臨也の頭を撫で、少し寂しそうに微笑んだ――――。



鳴かぬ蛍が身を焦がす





鳴かぬ蛍が身を焦がす
『口に出して言うよりも、じっと黙っていることのほうが、心の中での思いは痛切なのだということ。』

新羅の切ない片思い。




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