ハッピーエンド






「おい臨也!手前池袋に来んなって何度言ったらわかるんだよ!?」

「……誰?」


俺は街を歩いている臨也を見つけ、いつものように声をかけた。


はずなのに……


振り向いた臨也は眉をひそめて誰?と言ってきた。それはまるで初めてあった人を見るかのような目だった。


「……は?」

「あの…誰ですか?」

「手前臨也…だよ、な?」

「そうですけど…」


どういうことだ?演技とは思えない。いくらあの臨也とはいえ、冗談を言っているようには聞こえなかった。


「あの…すみません、俺事故にあって記憶がないんです。今日退院したばっかで…」

「どういうことだ?記憶全部無くなっちまったのか?」


突然の臨也からの報告に俺はただただ立ち尽くす事しかできなかった。


「全部ではないです。失礼ですけど…俺とはどういった関係で?」

「それも忘れちまったのかよ…っ、堅苦しい話し方なんかしなくていい、普通に話せ」

「あ……うん」


俺に関しての記憶が全て消えてしまっているということにショックを受けながらも、なるべくいつもと変わらない表情でいようとした。

本当に辛いのは臨也の方だと思ったからだ。


「…立ち話もなんだ、今の話信じられねぇんなら俺の家に来い。いろいろ説明してやるよ」

「ま、待って!」


そうして俺はクルリと向きをかえ、自宅の方へと歩きだした。



***



「──と、いうわけだ。わかったか?」

「……なんとなく」


家に着いてから俺は俺と臨也が初めて会った時の事から今までの関係を一通り簡単に説明した。

臨也は混乱はしているものの、俺の話を信じてくれているようだった。


「ついでに言えば、俺は手前に惚れていた。直接手前に好きだと言ったことは無いけどな」

「え…?」


あの嫌味を言うような臨也でも、さすがにいきなり好きだと言われて戸惑っていた。

その反応は当然だろう。
俺たちは男同士なのだから。


「トムさん…あ、俺の上司な。トムさんにはお前たちどこからどう見ても両思いだろってよく言われるけど俺からしたら両思いかなんてわかんねぇんだよ。だから好きだと言って関係が崩れるのが怖かった。ただ俺が弱かっただけなんだけどな…」

「なんでそれを俺に言うの?俺の記憶は戻らないかもしれないのに…シズちゃんからしたら今の俺は記憶を無くす前の俺とは別人……みたいなもんでしょ?」

「お、い手前……今…シズちゃんて…?」

「あれ?なんか自然と出てきちゃったよ。もしかして記憶を無くす前の俺が君のことシズちゃんって呼んでたのかな?」


ははっ、っと冗談のように言った臨也だが、俺はある可能性を考えた。


「…なぁ……自然と出てくるって事はよ、記憶戻る可能性あんじゃねぇか?いつかは分からねぇけどよ…」

「あ…」

「心配すんな、俺が傍にいてやっからよ」

「…なんでそこまで親切にしてくれるの?」


記憶が戻るかもしれないと言うと臨也は少し嬉しそうな表情をした。

それでも臨也はすぐに表情を曇らせて不安そうにした。

あくまでも可能性でしかない。それでも可能性がゼロじゃない限り俺は諦めたくないと思った。

そう思うのも俺がコイツに惚れているからなのだろう。


「好きだからだ。記憶があろうとなかろうと臨也は臨也だ。その証拠に話し方だって表情だって仕草だって全部一緒だ」

「っ…そんな、ストレートに……ふふ、シズちゃんがいろいろ暴露してくれたお礼に俺も1ついい事教えてあげる」

「いい事?」


そう言った臨也はいつものように企んだような表情をした。

でもその表情の中にはいつもは見ることの出来ない無邪気な表情もうっすら出ていた。


「俺ね、シズちゃんの事好きになっちゃったみたい」

「…、え!?」

「シズちゃんのその優しさに惹かれちゃった。こんな会ってすぐに好きになるって、やっぱり記憶がなくなる前の俺はシズちゃんの事が好きだったのかなぁ?」


恥ずかしそうにはにかんでいる臨也がとても可愛く見えた。臨也でもこんな顔するんだな…と、俺はちょっと感心してしまった。


「本気か?本気で俺の事好きなのか…?」

「うん。迷惑かけちゃったから俺から言わせて。シズちゃん、好きです。俺とお付き合いしてくれませんか…?」

「っ…あぁ、俺も好きだッ…」


そう言って俺は目の前の臨也を強く抱き締めた。



歪んだ日常





由佳様リクエスト「シズイザ両片思いで、どちらかが記憶喪失。最後は両思いのハッピーエンド」でした!

このようなお話しで良かったのでしょうか…?

リクエストありがとうございました!!




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