臨也が乙女






昨日の話だ、臨也の部屋で一緒にテレビを観ているときにあいつは突然言い出した。


『シズちゃん……もう止めよう?』


その時の俺には臨也が何のことを言っているのかわからなかった。


次の日から臨也は俺の前に現れなくなった。俺が新宿まで足を運んでも臨也は見つからない。何度も電話をかけたが繋がらない。なにも心当たりはなかった。どうして…



***



臨也と会わなくなってから1ヶ月ほどたったが俺はずっと臨也を探し続けてきた。

静かな池袋。
平凡な日常。

臨也に会わなくなってから何もかもがつまらなく感じる。

そんなある日…


「…?……なんか臭ぇ…臨也?」


そう思った瞬間俺は走りだした。後ろからトムさんの俺を呼ぶ声が聞こえたが今はそれどころではない。俺は息が乱れるのも気にせずに、一心不乱に匂いのする方に走った。


「はぁっ、はぁ…っ、臨也!臨也いるんだろ!?返事しろよ…っ!」


たどり着いた場所はどこかの路地裏だった。

匂いはまだする事から、確実に臨也が近くにいるという事はわかったのだが、臨也は俺の呼び掛けに何の返答もしてこない。


「なぁ臨也!なんで俺の前から消えたんだよ!?なんでわざわざ俺を避けるようになったんだよ!?


俺は返答のない臨也に大声で言い続けた。それでもやはり臨也は何も話さない。

俺は半ば諦めたように下を向き小声で呟いた。


「…淋しかったんだぞ」

「……え……?」

「ッ!?」


何を言っても反応の無い臨也を諦めて走ってきた道を戻ろうとクルリと向きをかえると、微かに臨也の声が聞こえてきた。

あわてて辺りを見渡すと、さっきまでは誰も居なかったはずのフェンスの上に臨也が座っていた。


「臨也っ!」


俺が呼び掛けると臨也はヒラリとフェンスから飛び降りて、俺に近づいてきた。


「……シズちゃん?」

「何で疑問系なんだよ?見たら分かるだろうが」


臨也は明らかに動揺を隠せない顔をしていた。


「なんで?なんでシズちゃんがこんなところにいるの?」

「手前がいきなりどこか行っちまったからだろ?俺が来ちゃ悪いのかよ?」


臨也が何を思って俺の前から消えたのかはわからない。でも、臨也本人も気が付いていないだろうが動揺した表情の中に少しではあるが嬉しいという感情が含まれているように感じられた。


「……俺なんか必要無いじゃん」

「はぁ?何言ってんだ手前…突然止めようとか言いだすわ、いきなり姿見ないようになるわ、挙げ句の果て今度は必要無いだぁ?」

「だってそうでしょ?別にシズちゃんは俺がいなくたって困らないだろう?それって必要無いってことじゃん」


臨也が必要ない?
そんな事あるわけが無い。俺にとっての臨也は特別な存在だ。

俺は…………


「だからさっきから手前は何を言いたいんだよ!?わけわかんねぇ!!」

「なんでそんなに俺のことを気にするの!?そんなに優しくされたら俺……勘違い……しちゃうじゃん…」


俺は臨也が好きなんだ…

体目当てではなく、臨也自身に恋をした。

臨也に会って初めていとおしいと感じた。守りたいって思った。自分の事を好きになってほしいって心から思った…


「なんだよ勘違いって?」

「──ッ、シズちゃんが俺のことを好きだって勘違いするって言ってんの!シズちゃんは俺の体目当てで俺に付き合ってたんだろうけど…俺はただ純粋にシズちゃんの事が好きだったんだっ!」

「な……」


俺だって臨也が好きなのに…臨也が勘違いしているままなんて嫌だ。

今の臨也にどう伝えれば俺の気持ちは伝わるんだ?ただ好きだと言えば臨也は納得する?……その可能性は限りなくゼロに近いだろう。俺が付き合ってたのは体目当てだと思い込んでる臨也にどう言ったら信じてもらえる?


「ははっ!何言ってんだこいつとか思ってるんでしょ?気持ち悪いと思ってるんでしょ?知ってる…わかってる……だから逃げた」

「んなこと思ってねぇよ…」

「嘘だ」

「嘘じゃねぇ」


俺は必死に言葉を探した。

こんなにも俺は臨也の事が好きなのに、どうして伝えられない?

俺は自分自身に腹が立った。


「…俺はシズちゃんが思ってる以上に弱い存在なんだよ。嫌われるのが怖いから…逃げることしか出来ないんだ……」

「……」

「卑怯だって事はわかってるよ?でも仕方ないと思わない?好きになっちゃったんだもん…シズちゃんのこと……」

「ッ──」


泣きそうになりながらも必死に自分の気持ちを話す臨也を見て、後先を考えずに俺は臨也に近づいていった。


「ちょ、放してシズちゃん!!」

「嫌だ放さねぇ。いいから落ち着いて俺の言うこと聞いてろよ?」

「……なに」


気が付いたらぎゅっと抱き締めていた。

俺の事が好きだと言ってきた臨也が堪らなくいとおしかった。


「まず初めに言っておくが、俺は別に手前の体目当てで付き合ってたわけじゃねぇぞ?」

「は?」


結局考えのまとまらなかった俺は、思ったことをそのまま言うことにした。うまく言葉になっていなくてもいい。この気持ちが、この思いが臨也に伝わるなら……俺は今までで一番と言ってもいいほどの優しい声色で語り掛け始めた。


「俺だって臨也の事が好きなんだよ…てっきり俺は気付いてるもんかと……」

「は、え…?何言ってるのシズちゃん…」

「っ…俺は手前に惚れてて、一緒にいたいからいつも会ってたんだよ!ああああ、んな恥ずかしい事二度も言わせやがって…!」

「俺の体目当てなんじゃないの…?」


あたふたとしたいる俺を臨也はキョトンとした目で見つめてきた。


「違うって言ってんだろ?そりゃぁまぁ体目当てってのも完全に嘘って事にはならねぇけどよ……その……手前…可愛い、し…」

「かわっ!?」


俺が可愛いと言うと臨也は驚いて目を見開くき、あっという間に顔を赤く染めていった。


「ほら、そうやってすぐに顔赤くする所とかよ…なんてゆうかこう……ムラムラするっていうか、もっと見たいって思うっていうか…独り占めしたくなるんだよ」

「っ…」

「これで俺が本当に手前の事が好きだって分かっただろ?だからもう俺の前から消えたりすんな。心配するじゃねぇか…」


言いたい事を全て言い切った俺は、臨也にふっと笑いかけた。


「…うん。ごめんねシズちゃん…俺、シズちゃんの事勘違いしてた…っ、ほんとごめん……ッ」

「いいからいいから、ほら泣くなって!な?」

「う…シズちゃ…っ」


俺は片手で泣いている臨也の頭を撫でてやり、開いているほうの手で涙を拭ってやった。

臨也が落ち着いてきたら俺は頭を撫でていた手で臨也の手を掴み、来た道を引き返し始めた。


「よし、帰るぞ臨也!!」

「ん…」


久しぶりに見た臨也の笑顔は、凄く綺麗だった。



すれ違う感情





リリス様リクエスト「本当は両思いなのに自分に付き合っているのは身体だけと勘違いする乙女ざやさんと臨也が本気で好きなのに信じてもらえないシズちゃんが頑張る話」でした!!

遅くなり申し訳ございません!




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