ぜんぶ、


「幸郎くん髪伸びた?」
「ああ、そうだね。もう面倒だからこのまま伸ばそうかなって」

 昼神は自分の腕に引っ付いて、下から覗き込んでくる恋人の質問に答える。中学に入ってからずっと髪は伸ばさなかった。元々癖っ毛ということもあって、寮生活になって毎日寝癖と戦うのも面倒だと思ってとりあえず切っていたのだ。スポーツ本気でやるなら、髪を伸ばしている場合じゃない、なんて思い込みもあったかもしれない。昼神は昔の自分はバレー部というより、野球部っぽい見た目だったなぁと、そんなことも呑気に思うこともできる。

「そっかぁ、伸ばすのかぁ」
「名前は短い俺の方が好き?」
「うーん、どっちも好きだけど。癖っ毛の幸郎くんも見てみたいなぁって」
「名前は欲張りだなぁ」
「だって、幸郎くんが癖っ毛なんてイメージなさ過ぎて」

 クスクスと笑う、可愛らしい恋人と昼神は春から高校生になる。彼女は以前よりも柔らかくなって、素直に昼神への愛情表現ができるようになっていた。昼神も昼神で、自分のしたいことに素直になってからはすっかり飄々としたマイペースな自由人に変貌を遂げていた。無理にいい人になろう、とすることはやめた。俺は優しくない。熱血じゃない。それが、どうしたって感じだった。むしろ、割と普通なんだと思う。だって、現実問題みんなで仲良くとか、みんなで幸せとかは無理な話で、だったら自分の大切にしたい人を大切にしたいなぁって俺は思った。基本的に周りに迷惑をかけなければ、ある程度は自分のしたいことをしても、人生が詰むわけでもない。

 昼神はまだそこそこしか生きてないけれど、最近本当に息がしやすくて、色々と大変で、楽しかった。バレーも以前よりしやすくなって、面白いチームメイトを見つけて、……そして、かわいい恋人との関係も順調だった。その恋人とちょっと悩みもあった。悩みと言うにはあまりにも贅沢かもれしない。

「名前」
「うん?」

 名前を呼ばれた彼女は昼神を見上げて、首を傾げる。ふわり、と彼女の髪が揺れて、甘い匂いが昼神の鼻をくすぐった。

「話したいことが、あるんだけど」
「え、悲しいお話?」
「悲しくない。むしろ、その、うーん」
「……今日お家でするお話?」
「そう」

 今日は何度目か昼神家にお邪魔する日だった。初めて昼神家に行ったとき、彼女は顔を青くして、手土産なしで訪問したことを後悔した。まさか昼神家が全員揃っているなんて聞いていなかった上に、昼神の大事な大事な愛犬に押し倒されて、昼神に下着を見られるという失態をおかし、色んな意味で心臓に悪い出来事が重なってしまっていた。最初に色々やらかしたお陰か、もうなにも怖いものはない。

「ちなみに、今日ご両親は」
「いないよ」
「お兄さん」
「いない」
「お姉さん」
「彼氏と旅行行くんだって、また惚気聞かされるだろうな」
「……そ、そっか」

 彼女は昼神の腕をぎゅう、と抱き締めて、自分の心臓がうるさくなるのが分かった。確かに、自分たちは付き合ってそこそこ経つし、キスだって何度もしてる。最近、妙に昼神がキスをするときに、際どいところに触れると思っていたけれど。やっぱり、そろそろということだろうか。

「名前」
「は、はい」
「俺、名前の嫌なこと、怖いこと絶対しない」
「なんで、急に……?」
「だって、名前すごい顔強張ってるから」
「あ、……こ、れは、緊張して、だよ」
「本当に?」
「うん」
「そっか。なら、良かった」




「ごめん。今日はちょっと外で待っててね」
「……」

 彼女は昼神が愛犬を部屋から出させた時点で、緊張が戻ってきた。一回好きだと言っただけで、用意してくれる紅茶のクッキーも、ミルクティーも嬉しい。昼神は宣言通り彼女のことをとても大切にしている。時には過保護なのでは?と思ってしまうくらいだ。彼女は今まで何気なく座っていた昼神のベッドの上に座ったことに後悔していた。どうしよう、どうしよう。嫌なんじゃない。怖いんじゃない。たまらなく、恥ずかしいのだ。

「名前頭抱えてどうしたの」
「さ、さちろ、くん」
「また緊張してるの?」
「だ、だって」

 これからは私たち、一線越えちゃうんですよね?とは口が裂けても、言えまい。彼女の緊張も、不安も包み込むように、昼神はやさしく彼女を抱き締める。

「さっきも言ったけど。
 俺は名前の嫌なことも、怖いことも絶対しないよ」
「……さちろ、くん」

 彼女は自分を抱き締める昼神の腕を掴みながら、こくん、と頷く。


 何度しても、慣れない。目と鼻の先に昼神の顔があると思うと、つい息をとめてしまう。唇同士が触れ合って、少しぱくり、と食べられるように触れて、彼女も口を開ける。昼神は彼女の首が疲れないように、そっと彼女の後頭部を手のひらで支える。昼神の気遣いとは裏腹に、彼女は少しだけまつ毛を揺らして、太ももをきゅう、と閉じた。幸郎くんの手、逃げるなって言ってるみたいで、なんか、ドキドキするなぁ。

「……」

 ぽふ、そんな間抜けな音をしながら、押し倒された彼女はどうしもようもない羞恥心に耐えるしかなかった。昼神は口数が少ない彼女の様子をいつもより慎重に見つめて、やさしくふれていく。大丈夫だよ、怖くないよ、まるでそう言うように、彼女の頭を撫でる昼神の大きな手は温かくて頼もしかった。瞼や頬、首筋にキス。そして、昼神の手が彼女のお腹に触れて、彼女は思わず昼神の肩を掴んでしまう。

「名前やだ?」
「ちがうけど、……」
「恥ずかしい?」
「うん」
「じゃあ……」

 どうしようかな。真っ赤な顔をして眉を下げる彼女はとっても可愛らしいけど、いっぱいいっぱいなのは気の毒である。昼神はふわふわと頭を撫でながら、きゅう、と結ばれた唇を見つけて、閃いた。

「名前はこっちに集中してて?」
「こっち?」
「キス」
「わ、わかった……」
「嫌だったり、痛かったら教えてね」
「き、キスしてるのに?」
「あー……じゃあ、右手上げて」
「ふふ、歯医者さんみたい」
「はい、ではお口開けて下さーい」

 昼神は彼女がやっと表情を柔らかくしたことに安心して、彼女の口を塞いだ。さらさらとした手触りのいいブラウス越しに、彼女のお腹を撫でる。大きな手のひらの下で、ぴくぴくと震えるのが、とても可愛いくて。そのまま彼女の様子を見ながら、手を上へずらしていく。服越しでも、少しだけ柔らかく丸み帯びている個所に、昼神の心臓がどくり、と音を立てる。予想よりも、ずっと柔らかくて、小さかった。本当に名前の身体ってどこもかしこも、小さくて、ちょっと触るのこわいな。

「んっ、ん」

 彼女は昼神に言われた通りに、キスに集中する。大きな舌に好きにされたり、一緒に絡ませてみたり、ちょっと苦しいけど、昼神の舌が強引に入って来て、隙間なく舌を絡ませるのが気持ち良かった。熱くて、頭がぼーっとしてくる。その間に、いつの間にか昼神の手はブラウス越しに、胸に触れていた。力加減を迷っているか、触れているかどうかよく分からなかった。でも、正直、下着の上からはやめてほしいかも。力加減を間違われて、壊されたらどうしよう。

「あ……、ごめん、痛かった?」

 そろり、と上がった彼女の右手に、昼神はそっと口を離して、身体を起こした。彼女は気まずそうに首を横にふる。

「……ブラウス脱いでもいいかな」
「えっ、名前がいいなら、どうぞ?」
「う、うん、じゃあ」

 彼女も起き上がって、ブラウスのボタンを外し始める。どうぞ、ってなんだ。昼神は自分のよく分からない発言にツッコミながら、視線の置き場に困るが、正直に勝手に視線は彼女の方へいってしまう。俯いていて、彼女の顔は見えない。少しずつ彼女の肌が露わになって、彼女は肩からブラウスを落とそうとして、そこで固まる。ぬ、脱いだ後、どうしたらいいの?畳む?畳んで、置かせてもらう?ぬ、脱ぎ捨てるもの?でも、あれって、ドラマだと、もっと衝動的な感じでベッドに行ってるよね。私が今ここで脱ぎ捨てても、どうした?ってなるのでは。

「名前?」
「あ、……えっと、ブラウス、どうしようって思って」
「……ああ、ハンガーあるよ?掛けようか。皺になったら嫌でしょ」
「あ、ありがとう」

 昼神は彼女からブラウスを肩から落として、脱がせるとそのままクローゼットへ向かう。

「名前ついでにスカートも脱いどく?
 膝丈だと、皺も付きやすいだろうし」
「あ、うん、そうしようかな」

 彼女は言われた通りに、スカートに手をかける。あ、あれ、……でも、私これ脱いだら、裸同然なのでは?

「さ、さちろくん」
「うんー?」

 本当に名前って身体だけじゃなくて、服も小さいなぁ。ハンガーに彼女のブラウスをかけながら、呑気なことを考える昼神に彼女はもじもじと声をかける。

「さちろくんも脱がないの?」
「えっ」

 は、そうだった。当初の目的を思い出した昼神が振り返ると、スカートを脱いで下着姿の彼女が立っていた。いつの間にか、靴下までも脱いでいる。

「脱ぐよ」
「そっか」
「うん、とりあえずスカートをもらう」
「お、お願いします」

 スカートをかけて貰っている間、彼女がどうしたらいいか迷っていると、後ろから昼神に抱き締められる。

「ひゃあ」
「名前どうしよう、俺すごい心臓うるさい」

 彼女は背中で感じる感触に、どきまぎした。初めて昼神の肌に触れている。いつの間にか昼神も、服を脱いだらしい。イメージよりもずっと、熱くて、たくましくて、大きかった。薄っぺらいキャミソールでさえも、もどかしい。

「わ、私も心臓うるさい」
「本当?確認してもいい?」
「うん」

 昼神の手がキャミソールを脱がして、下着を外してしまう。彼女は胸元が軽くなる感覚に、一瞬戸惑ってしまう。そんな戸惑いに気付かない昼神は緊張しながら、彼女の胸に触れる。下から持ち上げるように触れると、確かに手の中に温かな重みがあった。昼神は一種の感動があった。同じ人間なのに、絶対自分とは違う、身体の部分。予想より、ずっと柔らかい感触に、指先が勝手に動く。

「んっ」
「名前痛い?」
「……痛くないけど、さちろくん、慣れてる」
「え?」

 彼女の拗ねている口調に、気付いた昼神は彼女の顔を覗き込む。

「どうして、ブラ外させるの」
「え、見れば分かる仕組みじゃない?」
「……そういうもん?」
「うん。慣れてるみたいで、嫌だった?」
「うん、ちょっとっ、さちろ、くん」

 彼女のかわいいヤキモチに気分が良くなった昼神は、むにゅりと長い指先で彼女の胸を可愛がる。彼女は上体を倒すようにして、その刺激から逃げようとしてしまう。

「名前危ないよ」
「……」

 昼神は彼女をお姫様だっこすると、最初のように彼女をベッドの上に押し倒す。ほぼ裸の状態に、再び彼女の緊張が戻ってきた。困った顔で固まる彼女の様子に、昼神は彼女の頭をぽんぽんと撫でる。

「名前またこっちに集中して?」
「キス?」
「そう。痛かったり、嫌だったりしたら?」
「右手をあげる」
「うん。当たり」

 昼神は呟くようにそう言うと、彼女の唇を奪った。今度は最初から遠慮のないキスだった。昼神の舌がいつもより荒々しく彼女の口の中に入ってきて、舌の突起を感じてしまうぐらい、互いの舌を擦り合わせる。ちょっと息が苦しい、と鼻でゆっくりと息をしようとしているときに、昼神の手がむにゅりと彼女の胸を揉む。昼神はドクドクと落ち着きのない心臓が可愛くて、仕方がなかった、全体の感触を味わうように揉んで、反応をし始めた胸の先端を指の腹でやさしく撫でる。びくん、と彼女の腰が揺れて、その反応に昼神のごくり、と唾をのんだ、

 ぷくり、と膨らんだ先端の弾力は何とも言えなくて、癖になった。昼神は指の腹で撫でるように触れながらも、ときどき好奇心でつい、きゅう、と摘まんでしまう。舌を絡ませてるせいで、声はでない。ただ彼女の喉の奥で、音がもれる。くるくると、先端の周りを指先でなぞって、膨らんだ先端を押し込むように、ぐりぐりと触れると、面白いくらいに彼女の腰がびくびくと揺れた。

「……はあ」
「ん」

 昼神は我慢ができなくなって、唇を離す。彼女はぼ〜っとした頭では何も考えれなくて、無意識に昼神の手を掴んでいた。昼神は彼女の手をに握り返しながら、彼女に問いかける。

「名前痛くなかった?」

 こくん、と彼女が頷く。とろりとした目に、少し赤い頬は恥ずかしい所為のか、暑い所為なのか、よく分からなかった。

「俺ここ舐めたい」
「……?」
「名前のここ」
「やぁっ」

 昼神は空いている片手で、ぷくり、と反応している先端を指の腹で、撫で回す。彼女はもどかしい刺激に、思わず声を出してしまう。初めて聞く自分のやらしい声に、彼女の頬が真っ赤になっていく。

「だめ?」
「……わざわざ聞かないで」
「やった」

 昼神は察しのいい男なのである。彼女の気が少しでも紛れるように、昼神はくしゃくしゃと髪を撫でてて、ちゅう、と彼女にキスをする。彼女は昼神の動きが気になるけど、見るのは恥ずかしいという複雑な気持ちで、ぎゅうと枕を掴んだ。両手が空いていると、今にも昼神を押し退けそうになる。ふにふにと柔らかい胸を揉みながら、さっきから気になって仕方ないそこに、口を近づける。ちゅ、とキスをするように触れて、ぱくりと口に含んだ。好奇心のまま、ちゅーと吸えば、彼女の肩が揺れて、目をぎゅう、と瞑っていた。

「うっ、や」

 すごい恥ずかしい。それと、もう一つ。身体の中からじわじわ広がってくる熱の感覚に、戸惑ってしまう。彼女はそろり、と目を開ける。は、恥ずかしい、恥ずかしいんだけど、なんか幸郎くんかわいい。さちろくんが私より、下にいるって変な感じ。しかも、赤ちゃんみたいなことして。彼女の手は無意識に、昼神の髪へ伸びる。ふわふわだ。ああ、なんか、やばい。彼女は自分の中で、へんなスイッチが入るのが分かる。今でも、この飄々としてどこか危なげな陰をもつ男が、自分の腕の中にいることが信じられなくなる。彼女はたまらなく、目の前の男が愛おしくなって、ぎゅう、と抱き締める。

「!」

 昼神は急に胸に押し付けられるように、頭を押さえられて少し驚く。そぉっと視線を上げると、熱っぽく切ない目でこちらを見つめる彼女の姿があった。昼神は彼女のときどき見せる、その切ない目に弱かった。

「名前なに、おねだり?」

 昼神が茶化したように言えば、意外にも彼女は昼神の額にキスをして、こくんと頷いた。

「……もう、不意打ちでそういうのずるいよ」
「あっ、やだ、さちろくんっ」

 昼神はまだ可愛がってない胸の先端を口に含むと、先端を押し込むように、舌先でぐりぐりと可愛がる。彼女は昼神の頭を抱き締めながら、我慢ができなくて、甘い声をあげてしまう。はあ、ほんとに、名前かわいいな。俺最後までにしてないけど、割と何か満たされてきた。これで、最後までしちゃったら、どうなるんだろう。ちゅう、ちゅうと吸い付いて、舌先で転がせば、昼神の身体の下で、彼女の足がもじもじと忙しなく動いて、ときどき昼神のねつに触れて、昼神はひどくもどかしい気持ちになった。

「もう、やだッ……胸、終わり!」
「わあ」

 恥ずかしくて仕方なくなった彼女は無理やり昼神の顔をおして、くるり、と背を向ける。昼神は無防備に晒された背中に、グッと来て、そのまま彼女に覆いかぶさった。ちゅ、ちゅ、と白い背中にキスをしていけば、彼女の口から可愛い声がもれた。


「さちろくん、まって」
「んー?胸が終わったから、次はこっちって意味でしょ?」
「ひゃっ」

 大きな手がするり、と太ももを撫でたと思ったら、つん、と密かに濡れているところに触れる。彼女はうつ伏せになったまま、顔を上げられなかった。

「名前嫌だったら……?」
「右手上げる」
「うん、忘れちゃダメだよ」
「うん」

 昼神はいい子、とでも言うように、彼女の耳にキスをする。ずるい。さちろ、くんはずるい。もうここまで来たら、何も聞かずにそのまましてくれてもいいのに。ひとつ、ひとつ、彼女の気持ちを大切にしてくれる昼神の想いに、彼女の胸はきゅーと苦しくなる。昼神は下着の上からやさしくなぞるように、指先を動かした。あ、名前濡れてる。良かった、感じてくれてて。ちくちく、と静かな部屋に、濡れた音が小さく聞こえて、彼女はぎゅう、とシーツを握る。恥ずかしさでどうにかなりそうな彼女をあやしながら、昼神は彼女の腰を上げさせる。

「名前ちょっと腰上げて」
「……」
「うん、そのくらい」

 やっぱり、名前とベッドに挟まれたままだと、さすがに手動かしにくい。動きやすくなった手で、昼神はしつこいくらい入口をなぞったあとに、手探りで一番感じるというところ探す。うーん、見えないから、分かりづらい。でも、この体勢の方が名前がよく見える。ぎゅう、とシーツを握りしめる手の甲や、息遣いのような小さな声、真っ赤な耳。はあ、名前かわいい。ちゅう、と彼女の白いうなじにキスをして、そのまま舌先でぺろり、と舐める。彼女の身体はしっとり、と汗ばんでいた。

「んっ、あぅ」
「……名前、ここ痛くない?」
「だいじょ、ぶ」

 ぷく、と少しだけかたいところを見つけて、昼神をそこを、つんつんと突く。彼女の腰が跳ねて、とん、と昼神の腹筋へ当たる。そこを集中して、くりくりと可愛がれば、面白いくらい彼女は高い声をあげて、腰が逃げそうになる。昼神はつい彼女に体重をかけて、逃げられないようにする。

「やっ、まって、さちろ、くん」
「いたい?やだ?」
「ちがっ、う、けどっ、あっ」

 初めて感じている、この感覚が気持ちいいということも、もうすぐ自分ではどうしようもできなくなってる、ところまで来てる。ぜんぶ、わかってる。でも、そんな無防備になれるほどの、覚悟もまだなくて、でも、容赦なく昼神の手は彼女はやさしく、おとそうとしてきて、彼女は無駄な抵抗をしてしまう。したくなくても、してしまう。身体に、勝手に力が入る。

 やばい。優しくしなきゃって、分かってるんだけど。彼女の言葉を聞き洩らさないように頑張る昼神だが、彼女の言葉よりも、こっちの方を信じたくなる。昼神の指先を汚してしまうほど、とろとろになっているところ。はやく、そこに触れたくて仕方がない。昼神からの刺激はずっと同じものなのに、彼女の腰は止まらなくて、むしろ自分から昼神の指に押し付けてしまう。無意識な行動でも、昼神からすれば、目に見える変化で、むくむくと自分の支配欲を刺激されるのが分かる。

「名前かわいい」
「もう、だめっ」
「うん、いいよ。だいじょうぶだから、かわいいからね、だめになって」
「やぁ、あっ、んんっ」

 耳元で優しく囁かれる言葉に、彼女はなにが大丈夫なんだと微かに残った意識で突っ込んだ。でも、実際そんな強がりなんて、あってないようなもので、彼女は昼神に頭を撫でられながら、初めてイってしまった。


 ふぅふぅ、と息を乱して、くったりとしている彼女をころり、と転がして、昼神はやっと見えた彼女の顔をまじまじと見つめる。きゅ、と寄せられた眉と、真っ赤になったほっぺがかわいいような、えろいような。ちゅう、と柔らかなほっぺにキスをして、するり、と彼女の下着を脱がした。力が入っていない彼女の足は呆気なく開いて、昼神の手を受け入れる。

「名前気持ち良かった?」
「……」

 これでもか、というほど彼女は眉を寄せて、唇を尖らせた。昼神はにこっと笑いながら、まだ触れていないところへ触れる。

「や、さちろ、くん」
「名前が気持ちいいかどうか、分からないと、俺どうすればいいか、分かんないなぁ」
「ちょっとっ」

 長い指先がちゅくちゅく、と彼女の入り口部分をなぞって、彼女の羞恥心をあおる。

「う、……やぁ、いい、いいから」
「うん?」
「……きもち、よかった、から」
「うん」
「つづき、して」

 彼女は真っ赤な顔で言い切ると、嬉しそうに頭を撫でてくる昼神の胸板をぽかぽかと軽く叩いた。とりあえず、一本と昼神が中指を沈めたときに、彼女の口から呻き声が上がる。「いっ」「ご、ごめん、名前痛かった?」「う、ん……」昼神は慌てて指を抜いて、柄にもなく焦った。え、まだ一本だけだし、しかも、第二関節までも入ってないのに?確かに、彼女の中はとても狭くて、押し広げるようにしないと入らなかった。え、これ、本当に、入るの?俺の?

「さちろ、くん」
「名前……今日はここ」
「やだ。だいじょうぶだから、して」
「でも」
「私右手上げてない」
「……本当に我慢出来なくなる前に、言うんだよ?」
「うん」

 頷く彼女に、本当に素直に教えてくれるだろうか、と不安になりながら、昼神は身体起こした。

「え、やだ」
「しょうがないでしょ。指じゃ、痛いんだから」
「うう」

 彼女は大きく開かれた足の真ん中で、昼神の顔が沈んでいくのに気が遠くなりそうだった。どこまで行ったら、この恥ずかしさはなくなってくれるんだろう。

「さちろっ、やだぁ」
「んっ」

 名前は本当に小さなぁ。とろけてしまっているところを、舌全体で舐めあげれば、彼女の口から悲鳴にも似た声が上がる。小さなくぼみを見つけて、舌先でそこを突いて、そのままゆっくりと舌先を差し込んだ。彼女は自分も触れていないところを見られた上に、触れられる感覚に、もう訳が分からなくなりそうで、怖かった。いや、もう、分からなくなっているけど。他人に暴かれる感覚はすごい怖い、怖いのに、本当はそれを望んでいる自分もいることに気付いてしまって、でも、そんな自分を受け止めることはまだ、彼女には早かった。

 うわ、せま。彼女の中はあたたかくて、とろとろで、とてもせまかった。昼神が油断すれば、押し戻されそうだった。

「ふっ、やぁ」

 彼女の顔を見ることができないので、昼神は耳にも神経をとがらせる。少しでも、彼女の声に拒絶が含まれたら、すぐにやめなければならない。ぐぐ、とやさしく、ゆっくり、押し広げていく。舌をいれたまま、舌先で、彼女の中の奥にぐりぐりと刺激を送れば、白い太ももが震えて、腰が逃げようとする。昼神は内心謝りつつ、彼女の腰を引き寄せた。

「んやっ、ふ、あっ、あう」

 彼女は昼神の頭を両手で押さえながら、また迫ってくる感覚に涙を零す。昼神は彼女の声に、痛いくらい自分のものが熱くなっていて、苦しかった。奥だけじゃなくて、舌の抜き差しを繰り返せば、浅い所も刺激されて、彼女の腰ががくがくと揺れ始める。

「ああっ、さ、ちろくっ、ん」

 彼女は幸郎の名前を呼びながら、また達してしまった。

「ふぅ……、名前だいじょうぶ?」

 荒い息でふぅふぅと怒っているようにも見える彼女に昼神は苦笑い。今度は大丈夫かなぁ、と昼神は中指を彼女の中に入れて行く。

「んっ、……いたく、ない」
「ほんとに?」
「ほんっ、と」

 つぷつぷ、と中指が沈んでいくが、彼女の表情が途中で曇る。

「う、うっ」
「やっぱり、痛いんじゃ」
「ちがう、なんか、へんな感じする」
「へんって?」
「……ここ、じんじんして、あつくて、もっと、してほしい」

 本当はいたい。でも、いたいだけじゃない。昼神にもっと、さわってほしい。もっと全部を満たしてほしい。彼女は昼神の手を掴むと、自分で無理やり最後まで昼神の中指を飲み込んだ。

「ちょ、名前」
「うっ、いたいの、ちょっとだけ、だから、して」
「して、って」
「……さちろ、くの、いれて」

 もう、言った。全部ちゃんと、言っただろう。彼女は目尻をつり上げて、真っ赤な顔で、昼神を睨む。昼神はまさかの彼女からの、アクションにタジタジになってしまった。だって、正直、今日は無理だろうって思うじゃん。名前身体全部真っ赤で、ほっぺも真っ赤で、絶対疲れてるのに。

「絶対指より、痛いよ?」
「いいの」
「俺たぶん、止められなくなる、よ?」
「いいの。……もし、右手上げても?」
「あ、あー……右手上げたら、やめるかもしんない」

 熱に浮かされたふたりは、若干自分でも何を喋っているのか分からなかった。

「……さちろくんの、いれて欲しいんだよ」
「わ、わかったから、何回も言わないで」

 昼神が彼女の中から指を抜こうとして、彼女が止める。「な、なに」「ゆっくり、しないと、いたいの」「ご、ごめん」「んっ」彼女は昼神の手首をそっと引いて、つぷり、と自分の中から昼神の指を抜く。じくじく、と鈍痛が走るが、それと一緒に喪失感もあって、へんな気持ちだった。



「名前本当に痛かったら、我慢しないでよ」
「分かってる」

 昼神の何度目か分からない言葉に、彼女はうんうんと何度も頷いた。昼神は避妊具をつけた先端を彼女の割れ目に、擦り付ける。くちゅり、と熱くてとろけている場所に、勝手に腰が進みそうになる。何度か擦り付けて、ぐっと押し入れた。覚悟していた。予想していた。でも、めっちゃくちゃ痛い。彼女の目にじわじわ、と涙がたまる。「きつっ」昼神は彼女の太ももをもって、ゆっくりと、ぐっと腰を進める。彼女の中は、本当に狭くて、異物を押し返そうとしてくるのだ。

「まって、これ、無理かも」
「がんばって、よぉっ」

 だって、名前の中狭いんだもん。ほら、やっぱ名前痛いんじゃん。泣いてるし。昼神は罪悪感で腰が引けそうになるが、それを察して彼女が下から睨んでくるので、力尽くにはならないように気を付けながら、腰を進める。こんな薄っぺらい名前のお腹の中に、入るわけないじゃん。もう。なんで、俺のこんなにでかいの。

「さちろくん、いいから」
「え?」
 
 なに?なにがいいの?俺はちっとも、よくない。もっと名前のこと、どろどろに甘やかして、可愛いく鳴かせて、ってイメージだったのに。現実はこんなにぐだぐだで、名前に痛い思いさせて、おうえん?までされて、なんか情けなくて、もう。俺かっこ悪い。

「もう、やさしくなくて、いいから、きて」
「何言ってんの。そんな顔して」

 昼神は彼女の頬を引っ張って、珍しく怒った顔をした。ずっと痛いの我慢してる顔してくる、くせに。やさしくなくていいって、無茶だから、俺名前と約束したでしょ。名前のこと大切にするって。

「だって、だって、さちろくんの、ぜんぶ、ほしいんだもん。いれてよぅ」

 ぽろぽろ、と泣き出した彼女に、昼神は脳みそをぐしゃぐしゃにされた気分だった。名前って、最低、自分勝手。俺はこんなにも、名前のことを気にかけているのに。そんな俺の苦労をパーにすること、言うんだもん。しかも、そんな可愛いくて、自分勝手な欲望を言われて、俺はどうすればいいの。意味わかんない。

「もう、名前のばか」
「ばかじゃない〜」
「ばかだよ、名前は本当にばかなんだから」
「ばかばか、ひどい」

 昼神は彼女の腰を上げて、太ももを掴んで、広げる。ぐぐっと、強引に押し込むと、彼女の口から呻き声がもれる。昼神は上体を倒して、彼女の口を塞いだ。彼女は昼神の首に掴まって、荒々しい口付けに夢中になった。ずぷずぷ、と彼女の中に飲み込まれていく昼神はきつすぎる締め付けに、眉を顰める。

「はあ、名前力抜いて」
「ふ、う、はう」
「ちゃんと息しないと、苦しいよ」
「うんっ、はぁ」

 苦しい。おなか、いたい。身体の中だいじょうぶかな。初めて感じる圧迫感と、消えない鈍痛に彼女は息をすることだけで、精一杯だった。やば、動けないんだけど。てか、押し戻されないようにするので、やっとっていうか、きつい。昼神は少しでも彼女の気をそらそうと、むにゅりと、彼女の胸を揉みしだく。うーやわらかい。昼神は彼女の胸に顔を押し付けて、そのままちゅう、と吸う。じゅくり、と彼女の中がより一層蕩けだすのが分かった。

「名前ここ気持ちいいの」
「うんっ」

 彼女は眉を顰めたまま、うんうん、と頷いた。そうやって、彼女を胸を可愛がったり、キスをしたり、今日だけで分かった彼女の感じるところを弄っていくと、次第に彼女の中があつくなって、昼神を誘うように動き出した。昼神の口から、思わず声がもれる。試しに昼神が腰を動かすと、なんとかぜんぶ、入ることが出来た。

「ごめん。名前動いていい?」
「最初から、いいって言ってる」
「もう、名前可愛くない」
「あっ、もう、いきなりは、だめっ」

 昼神は彼女の手をぎゅう、と握って、ベッドに押し付ける。彼女はかなり上げられた腰が正直苦しかったけれど、自分の上で汗をかいて、息を荒げる昼神がとても可愛く見えた。とても、愛おしかった。さちろくん、私のこと感じて、こんな顔になってるの、すごいかわいい。それだけで、お腹のいたみも、息苦しさも、我慢できた。ずんずん、と強く突かれるたびに、意識が飛びそうになるのは、ちょっとがまん、無理かもしれないけど。

「やっ、さっち、くんっ」
「名前っ」
「んっ、やっ、ふあ」

 昼神の熱くて大きなかたまりが出たり、入ったりするたびに、痛みと一緒に、へんな疼きが生まれる。揺さぶられたら、嫌でも声は出る。どろどろにとけて、なんとか動けるようになった彼女の中は、これ以上ないくらい気持ちが良くて、腰が砕けそうだった。昼神の額の汗が落ちて、シーツにしみを作る。やばい、これ、どうしよう、きもちいい。正直、今まで性欲とか、ほんと興味なくて。さっきまで、名前がいたいなら、なんでこんなことするんだろって、思うくらいだったのに。名前と繋がって、俺にしか見れない名前の顔見ているんだと思うと、すごく、なんか、心にきて、あと、単純に、気持ちが良くて。

 いっぱいいっぱいの俺なんて、見ても、面白くも何もないはずなのに。彼女がすごく俺のことを、大事そうに、愛おしそうに見つめるから、なんか、ほんとに、名前の前だと、俺はどこまでも素直でいることしか、できない。

「名前好き、ねえ、名前も、俺のこと、すき?」

 名前は俺のこと、受け止めるだけで、精一杯なのに。欲張りな俺は、言葉でも名前を求めてしまう。

「えっ、んっ、なにっ?」
「名前すきだよ、名前は?俺のこと、すき?」

 揺さぶられている名前はぼーっと俺を見つめたあとに、目を少しだけ大きくして、きゅーって俺のことを締め付ける。こくこく、と一所懸命頷いて、名前は教えてくれるけど。ごめん、それじゃ、たりない。

「名前ちゃんと、言って?名前のこえが、ききたい」
「えっ、そんなっ、やっ、」
「名前おねがい」

 じゃあ、ちょっと、待ってよ。そんなことを言いたげな目が、下から俺を睨んでくる。でも、俺はへらり、と笑うだけ。だって、名前が動いていいって言ったんだし。それに、もう、割と我慢してたから、本当に止まってあげられない。

「すっ、さちろ、くん」
「うんっ」
「わたしも、すきっ」
「だれが?」
「ふぁっ、さちろーく、んのこと、すきっ」
「へへ、しってる」

 俺が笑えば、彼女はいっぱい眉をしかめて、俺を睨む。はは、名前俺のこと睨んでばっか。昼神はせり上がってくる快感に、彼女の小さな手をぎゅう、と握りしめて、強く押し込む。

「……うっ」
「やっ、さちろ、くんっ」

 避妊具越しに熱を吐き出して、昼神はゆるゆると腰を動かした。そして、一気にくる疲労感に我慢できず、そのまま彼女の上に倒れた。

「ぎゃ」
「はは。名前色気ない」
「!」

 彼女は昼神を軽く叩きたかったが、きつく握られた昼神の手のせいで、何もできなかった。昼神はのっそりと顔だけ起こして、彼女に短いキスする。

「うそ。名前めっちゃ可愛かった」
「……おう」
「名前って照れ隠し下手くそだよね」


 そのあと、昼神は処理をして、くったりと寝ている彼女の頭を撫でながら一緒にベッドに転がった。「つかれた……」「そうだね。名前身体だいじょうぶ?」「うん、だいじょうぶ」「無理しちゃ」「分かってるってば」「もう〜」そんな会話をして、またキスをして、ふたりはじゃれ合って、ふたり一緒に寝落ちをしてしまった。そして、昼神が次に目を覚ましたのは彼女の悲鳴のせいだった。

「名前?どうしたの!」
「……」

 ベッドの上に、名前がいない。寝ぼた頭で、周りをきょろきょろと探すと、彼女はベッドの下に落ちていた。

「名前〜寝惚けて落ちちゃったの?」
「……ない」
「え?」
「立てない」
「えー!」

 腰が抜けてしまった彼女に、昼神ははらはらとする羽目になった。

「名前どこ行こうとしてたの」
「……トイレ」
「ひとりで、できる?」
「できるから、幸郎くんは外で待ってて!」
「はーいー」

 昼神はクスクスと笑いながら、扉の外で彼女を待つことにした。その間に、すっかり拗ねていた愛犬に突撃されて、なんだか笑いが止まらなくなった。

「うーん、これから名前とするとき、どうしようね」

 愛犬は昼神の言葉に、不思議そうに首を傾げたのだった。


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