曲がるとは?


 まさか自分が少女漫画のようなヒロインになるとは、夢にも思っていなかった。学校で有名で人気な(?)男の子と幼馴染という、特別な位置を築く立場になるとは。相手によっては、お年頃とかで関係が疎遠になってもおかしくないのに。高校三年生になっても、付かず離れずの距離は続いていた。

「名前」

 賑やかだった教室の空気が少しだけざわついて、教室の扉に少しだけ視線が注目する。名前を呼ばれた彼女は居心地悪そうに、席を立って、その声の主の元へ急ぐ。

「わ、若利くん、どうしたの」
「すまないが、辞書を貸してくれないか」
「電子辞書?」
「ああ」

 彼女は電子辞書を机の中から取り出して、その幼馴染の元へもう一度急ぐ。なんか私、若利くんに呼ばれるといつも走ってる気がする。

「はい」
「ありがとう。授業が終わったら返しに来る」
「うん」

 教室に戻る幼馴染の後姿を見送って、彼女はまた大きくなった?と内心首を傾げた。



「名前と牛島くんが幼馴染ってこと、定期的に思い出す」
「若利くん定期的にやってくるからね」
「なんか、忘れ物する牛島くん見てるとさ、同じ人間なんだぁって思う」
「わかる」
「あ、次移動じゃん。音楽室行こ」
「うん」

 彼女と牛島が幼馴染という事実は、牛島のおかげで知られている。牛島自体はチームメイトから下の名前で呼ばれることが多いが、牛島自身が一人の女子生徒を下の名前で呼ぶのは今の所彼女だけだった。そう言えば、昔一度だけ若利くんと距離を置こうとしたことあったなぁ。確か中学生になった頃だったか。周りがお互いに下の名前で呼び合わないことが多くなって、幼馴染という関係をからかわれている同級生を見て、嫌な気持ちになった。

「若利くん」
「なんだ」
「そろそろ呼び方変えた方がいいと思うんだ」
「どうして?」
「いやあ、私たちも大きくなったし、……ほら、周りであんまり下の名前で呼ぶ人も居ないじゃん?男の子と女の子なのにさ」

 恋人でもあるまいし。

「俺にとって、名前は名前と呼ぶことが普通だ」
「んんん!」

 まだ難しいこと言って、若利くんめ。この幼馴染は昔から癖が強いのだ。

「俺は名前の言う、周りの普通が正直分からない。
 ただ名前が俺に名前と呼ばれることが嫌なら努力はする」
「い、いやとかじゃないよ、……ごめん、これは私の問題だ。忘れて」
「いや、むしろ悩んでいるなら、教えてくれ」

 んんん。圧がお強い。ぐいっと迫ってくる幼馴染に、彼女は観念して、今日感じたことを正直に話す事にした。牛島は特に呆れも笑いもせずに、頷いて、一言。

「なるほど。そういうこともあるのか……名前」
「はい」
「これは俺の勝手な予想だが、俺はあんまりからかわれない」
「……たしかに」
「心配しなくてもいいんじゃないか」
「た、たしかに。若利くん、天才?」
「いや、天才ではない」

 若利くんには敵わないなぁ、なんて。あのときは思ったけど、本当は呼び方を変えたくなんてなかった。ずっと若利くんと呼びたかったし、気兼ねなく話せる関係でいたかった。いや、今でもどんな話題で話かけても、若利くんはこっちが申し訳ないくらい真面目に回答してくれるだろうけど。私が一方的に若利くんに劣等感を抱いて、周りの目を気にしているだけだ。普段は気にしないようにしまっている胸のモヤモヤに、彼女の眉間に皺が寄る。若利くんのことは嫌いじゃないけど、きっかけで色んなこと思い出すからしんどい。おかげで、彼女は普段昼寝している音楽鑑賞の時間ずっと考え込んでしまっていた。彼女はだらだらと廊下を歩きながら、教室へと戻っていた。

「あ、若利くんの幼馴染ちゃん!」
「!」
「ごめんね急に。これ若利くんに渡して貰ってもいいー?」
「は、はい、分かりました」

 たまにある、定期的イベントの一つだ。牛島の幼馴染という、一つの立ち位置にいると、たまにこんな感じで依頼を受ける。ありがとうー!と去って行く男子生徒の姿に、彼女は急いでいるのだろうかと首を傾げる。移動教室の帰りのついでに、若利くんの教室に寄って行こう。彼女は他クラスという空気がちょっと苦手だった。たしか、去年クラス同じだった女の子いるから、その子を呼んで

「名前」

 はやい。本当に、若利くんいつも思うけど、はやい。

「わ、若利くん」
「どうした、俺のクラスに来るなんて」
「これ、天童くんが若利くんに渡してくれって」
「ああ。こないだ貸したノートか」
「うん、じゃあ……私はこれで」
「名前」
「はい」
「顔色が良くないな」
「そ、そうかなぁ?」

 あはは。それは若干チクチクと周りから感じる視線のせいじゃないっすかね。牛島と彼女の身長差はかなりあるのだが、牛島はいつも彼女のためなら、躊躇なく腰を曲げる。友達の言葉が頭から離れてくれなかった。

「でもさ、幼馴染にしては過保護じゃない?本当は付き合ってるとか?」

 そんなの、私が一番聞きたい。こんなあいまいな関係はいつまで続くんだろう。

「今日は寄り道せず帰るんだぞ」

 牛島はそう言うと、彼女の頭を撫でる。彼女は大エース様の手を叩き落とすことなんて、できない。そんな言い訳をしながら、大人しくその手を今日も受け入れる。

「うん、そうする」

 彼女が素直に頷けば、牛島も満足したように頷いた。



 その日は十八回目の、幼馴染の誕生日だった。「夜は若利くんのお家で食べるからね」と親から釘をさされていた彼女は、午後から行動すればいいと二度寝をしていた。そもそも毎年お祝いしているのだから、今更予定を入れたりなんてしない。今年も、何枚目になるか分からないスポーツタオルをプレゼントするのだ。感情の起伏が乏しい幼馴染は多分何をあげても、「ありがとう」と言ってくれる。

「名前起きろ」
「……え」
「名前おき」
「えええ、な、なんで、わかとしく、んいるの!?」

 頬をやわく撫でられてくすぐったいと思っていたら、低い声に嫌でも目が覚める。彼女は寝間着姿を見られるだけでも恥ずかしいのに、寝顔まで見られて、恥ずかしさが限界突破である。

「名前に渡すものがあったので、お邪魔させてもらった」
「そ、そうですか……」

 やっぱり、若利くん距離感おかしい。彼女はタオルケットを引っ張り上げて、隠れているのに。牛島は特何も気にせずに、ベッドに腰を掛けている。

「あれ?今日若利くんの誕生日だよね?」
「ああ、そうだ。今日で十八歳になった」
「だよね?お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう」

 彼女がお祝いの言葉を口にすると、牛島は珍しく目尻をさげて嬉しそうにする。あ、レアな顔。好きなんだけど、あんま見せてくれないんだよな。その顔。じーっと彼女が牛島を見上げていると、牛島は一つの小さな袋を彼女の目の前に差し出した。彼女は目を丸くして、牛島を凝視する。

「わ、若利くん……これって」
「ああ、待たせた。俺も十八才になったから、やっと渡せる」
「……」

 十八歳。ジュエリーショップの袋。彼女は冷や汗をだらだらとかいて、幼い記憶を引っ張り出した。

 とある日の牛島若利(5)&名字名前(5)

「え、けっこん?」
「俺は名前と結婚がしたい」
「なんで?」
「名前とずっと一緒にいたいから。だめか?」
「ううん、いいよ」

 またまた、とある日の牛島若利(12)&名字名前(12)

「いいなぁ」

 牛島は自分が筋トレをしている横で、目を輝かせる彼女の視線の先が気になった。それは指輪のCMだった。在り来たりなものでも、子どもの目には新鮮に映るもので。テレビに釘付けになっている彼女の腕を引く。昔から何故か彼女に対しては言葉より、先に手が出た。そんな牛島の行動に慣れきっている彼女は、なぁに?と首を傾げる。

「名前は指輪が欲しいのか」
「え!
 うーん、指輪っていうか、好きな人から身に付けるもの貰えたら嬉しいだろうなぁって」
「なぜ?」
「だって、プレゼントしてもらったもの見る度に、その人のこと思い出すでしょ?
 いつも一緒みたいで嬉しくない?」

 無邪気にそう語る彼女の横顔はとても愛らしく、幼い牛島の心をとても刺激した。

「じゃあ、今年の誕生日プレゼントは指輪だな」
「え、私の?」
「ああ。
 いや、名前が十六歳になってからの方がいいか」
「……十六歳って」
「女子は十六歳になれば、結婚できるだろ?」
「でも、若利くんは十八歳にならないと無理だよね?」
「まあ、そうだな」
「どうせなら若利くんと一緒がいい」
「一緒?」
「うん。一人で指輪つけても、寂しい」
「じゃあ、俺が十八歳の誕生日に指輪を贈ろう。デザインはさっきみたいな奴がいいのか」
「え……シンプルな奴がいいかな。特に飾りもないやつ」
「わかった」

 あの約束覚えてたのかぁ。若利くん、マジか。ちょっと待って、じゃあ、私と若利くんの関係ってなに?幼馴染?

「あ、あのう」
「なんだ」
「わたしと、若利くんのかんけいって……?」
「婚約関係、じゃないか?
 結婚の約束をしたんだから」
「……」

 わお。まじか。若干、本当に、0.1%くらいは思ってたけど、まじか。そりゃあ、ただの幼馴染ではないよなぁ。毎年お互いの誕生日を祝い合って、ベッドの上に侵入されても、嫌じゃないんだし。今日の今日まで、この関係をただの幼馴染だと思っていたこと墓まで持って行こう。彼女はそんなすっ呆けたことを考えながら、やっぱり我慢ができなかった。綺麗なジュエリーショップの袋がぐしゃっと、なる。寝顔でひどいのに、余計に酷くなる。でも、止まってくれない。

「名前?」
「……う、うっ」
「どうした?ここのブランドは嫌だったか」
「ちが、う〜」

 若利くんって、本当に若利くんなんだから。こっちがびっくりすぐらい、真っ直ぐで、曲がることを知らなくて、本当に敵わないなぁ。一般人の私からしたら、若利くんの真っ直ぐさは真っ直ぐ過ぎて、変化球になっちゃってて、いつも驚かされてばかり。本当に若利くんはいつだって、シンプルで、真っ直ぐで、強い。そんな真っ直ぐさが、時々怖いとも、可愛いとも思う。でも、結局最後は好きだなぁって思っちゃう。

「若利くん……私のこと、好き?」
「好きだ」

 何の迷いもなく思いを告げられて、彼女の涙腺はバカになってしまう。こんなにも他人に想われたことはない。自分が気付かなかっただけで、ずっとこの幼馴染はひたすらひたむきに、真っ直ぐに想い続けてくれたのかと思うと、胸が苦しくなって、涙が勝手に出て来てしまうのだ。

「私も若利くんのこと好き」

 彼女が泣きながらそう告げれば、牛島は彼女の好きな笑顔になった。

「若利くん、抱っこして」
「ああ」

 牛島はタオルケットに包まっている彼女ごと引き寄せて、自分の膝にのせる。さっきからどうして泣いているのか分からない、牛島は彼女の顔を上げる。彼女は牛島の大きな手に、むいむいと頬を遊ばれながら眉を顰める。やめてくれ、これ以上私の顔をひどいものにするつもりか。

「俺からも一つ聞いても良いか」
「あ、あい」
「名前は俺と同じ好きか?」
「えっ」
「名前の気持ちを疑っているわけ、じゃない。ただ俺の気持ちと名前の気持ちが、ときどき違う気がして」
「……本当に好きだよ、若利くんのこと。
 でも、ほんとうは不安だったの」

 不安という言葉に、牛島は眉間に皺を寄せる。

「あんな小さい頃の約束、覚えてないんじゃないかって」
「俺は名前と違って記憶力はいい方だ」
「……」

 そうだけれども!事実だけれども!もう若利くん、本当に君は!マイペースなんだから!

「ほ、本気にしてないんじゃないかとか」
「俺は冗談は言わない」
「し、知ってます……それでも、不安だったの。バレー本格的に始まって、一緒にいることも少なくなったし、す、好きって言って貰ったのも今日が久しぶり?だし、
 なんか、若利くんどんどんすごい人になって、離れて行くみたいで」
「……分かった。じゃあ、これからは毎日名前に伝えよう」
「え」
「俺が好きと言わなかったから、不安だったんだろう?」
「う、うん。ちなみに、どうして好きって言わなかったの?」
「名前は俺の気持ちを既に知っていると思っていた」

 な、なるほど。若利くんの中で、私たちは思いが通じ合ってる、感じだったんだね。あ、あれ、でも……?

「若利くんも、私の気持ちにふあん?だった?のは……なんで?」
「昔ほど話さなくなっただろう。もしかしたら、避けられているのかと思って……はっきりさせなかった。
 いや、出来なかったの間違いだな」
「?」
「俺は名前に嫌われているという事実を受け止める自信がなかったんだ」
「なんか紛らわしい態度で、ごめんなさい」
「いや……じゃあ、一つだけ俺からもいいか」 
「はい」
 
 もう何でも言ってください。彼女は自分の独り相撲で、ひたむきな幼馴染を傷付けていたという事実に良心がはち切れそうになっていた。

「また昔の頃みたいに色々と聞いて欲しい」
「昔みたいに?」
「ああ」

 彼女は今日は昔の記憶を引っ張り出す日だなぁと、昔を思い出そうと眉を寄せた。



 まだ二人が幼いころだった。名字名前と牛島若利は対照的な子どもだった。彼女は今でこそ落ち着いているが、幼い頃は子どもらしく好奇心旺盛な子だった。気になる草があるならとりあえず抜いてみるし、かっこいいと思えば屋根に上っていたし、入ってみたいと思うと牛島家の池に突っ込んでいたり、と本当に落ち着きのない子どもだった。生傷は絶えないわ、泥だらけだわ、怒られるわで、牛島はなぜあそこまで色んなものに興味をもてるのか不思議だった。そんな彼女は牛島にも好奇心旺盛な所は変わらずに、なんでも聞いていた。

「若利くんは嬉しいの?怒ってるの?」
「辛いの平気なの?」
「夜中のトイレ怖くないの?」
「ねえ、名前といるの好き?楽しい?」

 牛島は幼い頃から感情が表情に出にくかったため、「牛島くん何考えてるか分からない」「多分気にしてないと思う」みたいな感じで、流されるところがあった。牛島自身、そのことで傷付いた思い出があるわけではないが、そんな中で自分の気持ちを知ろうとアクションを起こしてくれたのは彼女が初めてだった。たぶん、両親を除いては、そのはず。

「ねー、若利くん私のこと好き?」

 ふたりで遊んでいるとき、彼女はよく牛島にその質問をした。最初はあまりにも牛島の表情が変わらないものだから、自分のことが嫌いなのかなと思ったのだ。初めてその質問をされたとき、正直牛島はよく分からなかった。

「好き?」
「もしかして、若利くん好き分からない?」
「名前は分かるのか」
「うん。やってみて、嫌じゃなかったらだいたい好きなんだよ!」
「?」
「私はねえ、若利くんといるの嫌じゃないから好きなの!」
「それなら、俺も名前といるの嫌じゃないから好きだ」
「本当に?私のこと好き?」
「好きだ」

 牛島の「好き」という言葉に、彼女の目がきらきらと輝いて、彼女はにぱぁと笑う。

「私も若利くんのこと大好き!」

 牛島は彼女の笑顔が好きだと思った。自分が好きと言うと、とても嬉しそうにする名前が好きだと思った。そして、彼女も自分がその質問をした後に、少しだけ口角をきゅうと、逆三角のようにあげる牛島のぎこちない笑顔が好きだった。だから、彼女は何回も何回も、牛島のその質問を繰り返した。牛島の笑顔が見たくて。

「若利どうした」
「……名前はお家に帰らないといけない?」
「そりゃあ、名前ちゃんのお家はここじゃないからね。
 もしかして、名前ちゃんが帰るの寂しいのか」
「さみしい?
 名前が帰るの好きじゃない」
「名前ちゃんと一緒にいたいってことは寂しいってことだよ」
「……寂しいはずっと寂しいまま?」
「うーん。
 名前ちゃんと結婚すれば、若利の所に帰ってくるから寂しくなくなるかもなぁ」
「けっこん?」
「どんなときも、いつまでも、一緒にいますって誓う仲のことだよ」
「……」



「うわあ、黒歴史まで思い出しちゃった」
「黒歴史?」
「気にしないで。
 本当に?昔みたいに色々聞いていいの?」
「ああ、名前に聞かれて嫌なことはない」
「わあ、さすが若利くん」
「名前」
「はい」
「そろそろ指輪をつけてもいいだろうか」
「あ、うん、お願いします」

 すっかり手の中にあるものを忘れていた。牛島は指輪をケースから取り出すと、迷いなく彼女の左手の薬指に指輪をつける。彼女は瞬きを繰り返して、牛島を見上げた。

「若利くん……もしかして、私の指のサイズ知ってる?」
「……名前が寝ている間に、こないだ測らせてもらった。すまない」
「そこはサプライズなんだ」
「天童がサプライズの方が喜ぶだろうと」
「な、なるほど」
「嫌だったか?」
「ううん、うれしい。私も若利くんにつけていい?」
「ああ、頼む」

 若利くんの大きな手に触れるのは久しぶりだなぁ。彼女は少しだけドキドキしながら、自分と同じように牛島の左手の薬指に指輪をつけた。

「これで一緒だ。もう不安に思う必要はない」
「うん」
「もしこれから不安になったら、この指輪を見て俺を思い出してほしい」
「うん、分かった」

 彼女は昔とは比べ物ないほど、大きさの違う二つの手を見つめる。そして、大きさが違う二つの手を繋ぐ指輪。牛島の手をぎゅう、と握りしめれば、牛島も握り返す。

「そして、準備が整ったら結婚しよう」
「うん、わか……準備?」
「ああ。
 改めて互いへのご両親の挨拶や、結婚式は金がいる。
 それに、名前は進学希望だろう?学生の内の結婚はな」
「わ、わかとしくん、そこまで考えて」
「?」

 やめて、その当たり前だろうって顔やめて。

「そ、そうだね。私もしばらく恋人気分味わいたいな」
「恋人か」
「うん。わかとしくん、いや?」
「いや、嫌じゃない。俺は名前と一緒なら何でもいい」
「ふふ、私も」


 
「あと、もう一つ」
「もう一つ」
「名前に謝らないといけないことがある」
「え、なに」
「いつも辞書や教科書を借りていたが、ウソなんだ」
「?」
「名前に会に行くための口実だ」
「じゃあ、これからは口実なくても会いに来てくれると嬉しいな」
「ああ、そうする」

 彼女は牛島からのキスを受け止めながら、繋いだ手をぎゅう、と握りしめる。
 一生離れませんように。
- ナノ -