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アングレサイト・蛇足
「俺、ちゃんと緋乃さんのこと好きだった。それこそ遊びじゃなくて、本当に。俺が身辺整理していたことを知っていただろうな、とは思ったけどちゃんと伝えなきゃいけない。
……俺はね誰かお母さんになってくれるんじゃないかって思ってた。」
「お、母さん……?」
「大概の子はこれ話した時点でドン引きするから身辺整理も捗ったんだ。ちゃんとアイドルするつもりで、その間に女性関係のごたごたは起こしたくないからね。全部縁を切っておこうと思ってたんだけど……。」

言いにくそうに少し目線を外して、少し震える声で言葉を続けた。

「緋乃さんにはいつまでも言えなかった。実は緋乃さん以外全部済んでるんだけど、電話するにも勇気必要でさ。もしかしたら、緋乃さんならって淡い期待を抱いてた。俺が求めてるもの全部持ってった。海辺一緒に歩くのも好きだし、チョイスするお店も好き。俺の話を楽しそうに聞いてくれて、好きになるには十分だったんだ。」

その言葉に思わず耳を疑った。薫くんが私を好きだった?お母さんとかに驚きはするけど複雑な家庭事情なのだろう。それは構わない。構わないけど、そうじゃなくて―――。

「私のこと、好きだったの?」
「あはは、割と前面に出てたよ?」
「……あの、私は。」
「……うん?」
「お母さん、っていうのには驚いたけど。それはそれくらいの愛で包んでほしいってこと?」
「そう、だよ。お母さんみたいな愛で、ってこと。」
「じゃあ、私がお母さんに受けた愛情のもっと沢山をあげればいい?沢山甘やかせばいい?」
「……え、緋乃さん?」
「私に出来るか分からないけど、やるよ。お母さんになってあげるけど、ちゃんと恋人にもなりたい。」
「いいの?本当に?」
「何があったかとかは聞かないけど、ただ初めて会った時から何となく感じてた。もしかしたら求めているものがズレてるのかなって。薫くん、周りに気を使い過ぎてるの。学校の話も男には興味ないとか言いながら結構世話焼きだったし。女の子とのデートもそうでしょ?
―――もっと、甘えていいんじゃないかな。」

向かいに座っていた薫くんは立ち上がって私に正面から抱き着いてきた。特に抵抗することなく受け入れ彼は首筋に顔をうずめながら泣いているようだ。瞳と同系色の柔らかい髪の毛を撫でながら、背中をトントンと軽く叩く。


「ねぇ、私単体としては何で好きになったの?お母さんの話抜きで。」
「……一目惚れ。だから引っ掛けたの。」
「……そっか。」




アングレサイトは透明な欠片を沢山零しながらキラキラと輝いていた。