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返礼祭ネタバレあり
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私が彼と出会ったのは2年前。一つ年下の彼が遊び歩いているときに通りすがりの私を見かけて引っ掛けたのが始まり。それ以降割と頻繁に遊んでいる。学校をさぼって毎日のように女の子と遊んでいる姿に特に嫌になるわけでもなく、そもそも自分もその中の一人だ。

彼にとっては大多数の中の一人で、私にとっては唯一の人。お遊びな関係をしっかり作り、彼のそれ以上先のプライベートへは踏み込まない。その口から学校のことだったりは聞くのだが、私の言うプライベートはもっと根本。彼の人格形成に大きな影響を及ぼしたものだ。

「緋乃さん!」

今日もまたお遊び。この時間は高校ならば普通に授業をしている時間帯だろうに当然のように来ている。制服を着るでもなく、完全な私服。いつもみたいな軽い笑顔に緩い手の振りで座っていたベンチから立ち上がり、緋乃のほうへ近づいた。
私はまるで彼がただの遊び人のように言っているが、普通とはちょっと違う。デート相手への紳士的な行動、デート中は他の女の子の名前を出さず見かけても『ごめん。』と拒否する。フェミニストでいろいろな女の子と遊んでいることを自覚しているわけで。それが他の子たちにどんな影響を与えるかを考えて、デート中の子を最優先にするという徹底っぷり。

彼とするのはあくまでも遊びで、本気の恋ではないのだ。本人曰く本気で恋してくれている子に今までのように扱うことはできない、それは気持ちをすべて無下にしてしまう。という理由できちんと告白されると断っているらしい。
それは即ち彼が一切恋愛をするつもりがないということだ。もしくはすでに心に決めた人がいるのか。

「薫くん、こんにちわ。」
「こんにちわ〜。この時間大丈夫だった?」
「空コマなの。学校で自習してても仕方ないし。」
「そっか!大丈夫なら行こう?緋乃さんどこ行きたい?」
「もう秋も終わるけどさ、海行きたいな。」
「海!いいねぇ〜、おれも好きだし行こっか。」

薫くんはするっと私の手を取り少し前を歩く。薫君は海が好き、という噂は聞いたことあったし彼がサーフィンしていることも知っている。私は海風で本を読んだりお茶をしたりするのが好きで、よく浜辺に行くのだ。泳げないため海に入ることはできないのが残念なところ。
この街から海はそう離れたところじゃないためあっという間についた。海風はだいぶ肌寒くなり上着の上から思わず腕をさすってしまう。私はこの風が好きなのだ。冬の凍てついた海風も、その前段階の今の風も。

「結構寒くなってるね〜。緋乃さんこれ羽織っておいてね。」

その言葉とともに肩にほんの少しの重みと温かさ。どうやらカバンの中に入っていた上着を貸してくれるらしい。腕を摩っているのを見たのだろうか、用意周到だなぁ。堤防の横を歩きながら薫君の話に耳を傾ける。同じユニットの人の話とか、最近可愛く見えてきた後輩の話とか。

―――あぁ、やっぱり好きだなぁ。

薫くんと会って感じるのはいつもそれ。私はどうやら恋愛的に薫くんが好きらしい。遊びから始まった恋、なんてフィクションどころか現実でもありがち。それでも私が告白しないのは彼との関係を崩してしまうから。告白は断る。あくまで私たちとは本気の恋愛はしない。それが今まで見せてきた彼のやり方なのだ。
それならば告白せずにこのまま過ごしていた方がよっぽどいい。告白は即ちこの関係の終わり。もうこうやってデートすることもない。ならば賭けにすらならないことする必要はないのだ。

「緋乃さん?どうかした?」
「ううん、何でもない。薫くんが今度ライブするのって何時か分かる?時間あったら見に行ってみたいなぁ。」
「ホント!うわ、嬉しいな〜。緋乃さんなら大歓迎!来週末に地下のライブハウスでやるんだ。」

薫くんはそう言って愛用の携帯でHPを見せてくれた。この日なら特に予定はない。今まで一度も見に行ってこなかったから偶にならいい。彼の普段見れないような姿が見れるのは私としても嬉しい限りだ。
そうこうしているうちに私は次のコマまであまり時間がないことを思い出した。空コマに来ていたためそう長く居れなかったがすごく楽しかった、そう伝えて今日のデートは終わり。
途端に日常に戻り退屈な授業を受けるのだ。


・・・


3月。風の噂で薫くんが身辺整理をしている話を聞いた。どうやらそのままアイドルとしてデビューするらしく、女関係を引き摺ることは良くない。
そういえば昨日着信が入っていた。別れを言うためにわざわざ一人一人会っているのか、自然消滅させるでもなくそこをしっかりやるあたり薫くんらしい。だがそれからもう一度かかってきた着信にも私は出なかった。会って話せばすぐにこの関係は崩れる。薫くんの方から崩し、こちらが加えて告白したところで結果は変わらない。最終的にどう転んでもさよならしかないのだ。


―――いやだ。会いたくない。


でも会わないと。薫くんはこれから沢山頑張るのに私が足を引っ張りたくはない。
今の時間なら大丈夫だろうかと薫くんに電話をかければ「駅前まで来れる?」と聞かれた。私はやっぱりそういう話かなぁって考えながら頷く。すぐ行くからと電話が切れ、私も学校から急いで駅へ向かった。

そこには既に薫くんの姿があって。ちょっと息を乱しているのは急いだからだろうか。

「ごめん、ちょっとこっち来て。」

珍しく余裕のない声音で手を引かれる。駅から路地を少し入ったところにあるお洒落なカフェーバーへ入店しマスターへの挨拶もそこそこに個室に連れていかれた。

「薫くん、電話ごめんね。」
「……まぁ、そうかなとは思ってたよ。」
「私先に言っておくね。」

薫くんが何か言う前に私はそう前置きしてしっかりとアングレサイトの目を見つめる。なぜか彼は凄く傷ついた目をしていて、まさにその宝石のようにすぐ壊れてしまいそう。
伝えないと、私が彼を好きだったことを。伝えなければこの恋は終われない。ちゃんと私からも終わらせなきゃいけない。崩れていく関係にいつまでもしがみついてはいれないんだから。


「―――――薫くんのこと、好きだったよ。」






ああほら、もう壊れてしまいそうなアングレサイト。