重ねてついた嘘


二年生の終わり。私たちは、来年で最後になる部活に励んでいた。
先輩達は高総体が終わってからもちょくちょく顔出しに来たけど、
もう進学や就職に追われていて忙しい筈だ。
今は昼休みで自販機まで飲み物を買いに来たら、見知った人を発見した。

「謙也先輩」
「ん? おぉ、名前やん」

中学からのテニス部の先輩である忍足謙也先輩。
彼も高校が同じで中学の時と同じように光とダブルスを組んでいた。
気さくな性格からか同級生からも後輩からも慕われていた。

「久しぶりやなー」
「同じ学校にいるのに?」
「ははっ。そう言われると困るな」

隣に並んで自販機のボタンをピッと押せば、ガコンガコンと言う煩い音を立てて缶が落ちてくる。

「おしるこて…財前のパシリか」
「そうですねー。ついでに買って来いって言われました」
「アイツらしいわ。彼女なんにこき使われて大変やろ」
「さして中学時代と変わりませんよ」

謙也先輩に苦笑すれば、「確かにそうやな」と笑いが返ってきた。
そして咳き込むと「なんや風邪か?」と少し心配そうな表情になった。

「はは、大丈夫ですよ。ただの咳です」
「そうならええけどな。寒いから気をつけるんやで」
「謙也先輩こそ、風邪引かないで下さいね。受験に風邪拗らせて休んだなんて洒落になりませんから」
「お前な…ま、受験頑張るわ」

じゃあな名前、と手をひらひら振って笑顔で謙也先輩は行ってしまった。その後ろ姿を見送ってから私は息をはいた。

――風邪に、見られても変ではない。でも…本当の事など、言える筈がない。
そう、言える筈などなかった。自嘲気味に微笑んで先程の明るさに戻す。
私は光が待っていると思って踵を返して教室へと戻った。


***


「遅いわ」
「ごめん、謙也先輩と話してて…」

軽い言い訳をして彼に缶を渡せばお礼もなくプルタブに手をつけた。
そんな彼を見て苦笑し、私は彼の前の席に座った。

「謙也さん、元気そやった?」
「うん、受験が近いっていうのに凄く元気だったよ」
「あの人は能天気やからな」

毒舌家の彼は誰かれ構わず毒をはく。
けれど、信頼している人に対しての毒舌は何故か少し暖かく思えた。

「…俺らも、そうなるんやもんな」
「うん…あと、少しだね」

もうすぐ三年生。三年生になれば、今まで以上に忙しくなるに違いない。
勉強と最後の部活、進学・就職での面接練習。そして、高校最後の学校生活。

「三年なっても同じクラスやったらええな」

その言葉が、今の私には辛く重かった。
ズキンという痛みが胸に突き刺さり、硝子の破片が食い込むようにして痛めつける。

でも、本当の事を言うことは…出来ない。今年が、私が彼と過ごす最後の高校生活だということを。
それを悟られないように、私は満面の笑みを彼に向けた。

「そうだね」

ただ、その一言がどれほど重かっただろう。
私は彼に期待させておいて、彼を裏切る行為をしたようなものだ。
その重みに付き纏われながら過ごすことになるのだろう。

「…ごめんね」

この小さな呟きが、彼に聞こえていたかは分からなかった。



重ねてついた嘘



君に悟られないように、笑った
本当は、こんな笑顔なんか向けたくなかった



100826



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