(キミへの愛の言葉を紡ごう)


 小さな窓から漏れる朝日は眩しい。もぞ、と体を反転させて、枕元から少し離れた時計に精一杯手を伸ばす。指先が冷たい金属に触れて、びく、と一度手を引っ込ませるが、届いたことでもう一度手を伸ばし、ガッと掴んで自身の目の前まで持ってくる。
 只今の時刻、朝の7時を過ぎたところ。もう7時か、と思って名前は欠伸を噛み殺す。そして隣で彼がまだ寝ているのを見て、少し笑みがこぼれた。彼を起こさないようにそっと布団を剥いで、足を地面につけようとした時、彼に近い方の腕が掴まれた。揚羽はそれにびく、と体を震わせた後、そっと彼の方を見れば、まだ眠たげに瞼をこする彼がいた。

「今、何時」
「7時過ぎたとこ」
「…まだ早ぇじゃんかよ」
「朝食の準備しなきゃ」
「あと少し寝てようぜ…」

 そういって盛大な欠伸を漏らした彼に名前は笑いながらその真っ赤な頭を撫で、「だーめ」と目を細めた。

「いつもお腹空かせて、まだかまだかって待たせるのは嫌いなの」
「……わーったよ」
「もう少し、寝てていいよ」
「お前が起きたなら、起きるよ」

 くあっと猫のような欠伸をして、彼は上半身を起こして両腕を天井へと突き上げた。髪は寝起きの所為でお互いボサボサ。でもどちらかといえば、彼の方が酷い。

「先に洗面所使うよ」
「おー…と、ちょい待ち」
「ん?」

 未だ名前の腕を掴んだままの彼は、その腕を、あまり力を入れずに自身の方へと引っ張った。名前もそれに従って彼の至近距離まで近づく。彼は腕を掴んでいた手を離し、そして名前の頭へと腕を回すと、そのまま引き寄せ、目元にキスを落とす。

「おはよ、名前」
「…おはよ、ブン太」

 少し頬を紅潮させて、名前は目を逸らす。それに愉しそうにブン太は喉を鳴らした。いつも、先に起きて朝食を作るのは彼の役目。そしてブン太は名前が寝ている内にキスをするので、名前としては起きている時にキスされるのは恥ずかしい。今日は久しぶりに二人揃っての休日なので、名前が朝食を作るのだ。



■  □  ■




 洗面所から出てきたブン太はキッチンへと移動して、冷蔵庫を漁る。名前はスクランブルエッグを丁度作り終わったところで皿に盛り付けている。

「何飲む?」
「牛乳か、野菜ジュースで」
「んじゃ野菜ジュースな」

 ブン太は二人分をグラスに注いで、テーブルへと運ぶ。タイミング良くパンがトースターから飛び出してきたので、それを皿に移す。名前は焼いたばかりのベーコンとスクランブルエッグ、それから昨日の残りのサラダをテーブルへと置いて、席に座った。名前が席に着いたことでブン太は料理に手をつける。名前もブン太が手をつけたのを見て、自身も食し始めた。

「なあ、」
「うん」
「今日、どっか行かね?」
「…いいけど、どこ行こっか?」
「買い物か、それとも遊園地か」
「じゃあ、久しぶりに遊園地行きたいな」
「学生ん時以来じゃね?」
「だね。あの時は皆で行ったっけ?」
「いや、その後二人でも行った。つか、あいつ等元気にしてんのかな」
「赤也君は時々遊びに来るから元気なのは分かるけど。あ、でもこの前柳にあったよ」
「柳に?」
「うん、なんかね、女の人といた」
「ゴフッ…マジかよ」
「私も少し話したんだけどね、婚約者さんだって。結婚はまだ先の話みたい」
「そういや、俺らの中で、誰も結婚してねぇんだよな」

 「もう10年も経つのに」と付け足したブン太に名前は「そうだねぇ」と思案するように返した。皆それぞれ恋人や婚約者はいるのだろうけど、もう少し遊んでいたいのだろう。仕事が忙しかったりというのもあるだろうし、と名前は考える。それは、自分達だって同じことだった。同棲生活を始めたのは、今から2年前のことだった。名前のところにいきなりブン太が乗り込んできたのがきっかけだったりするが。
 そんな話をしているうちに、二人は食事を終えて、後片付けを始める。そしてそれが終わると出かける準備に入る。まだ朝も早いが久しぶりの休日をお互いに楽しみたいと思っているのだ。だから早いことなど気にしない。二人は戸締りをしっかりしたことを確認して、玄関へと向かう。ブン太は自分の靴を履き終えるとその場に立ったまま、動かなくなった。名前は、ブン太がそこに立っていることで靴が履けないのだが、一体どうしたものだろう?と「ブン太?」と声をかけた。暫くしてから、彼は口を開いた。

「あのさ、」
「うん」
「俺達、結婚しねぇ?」
「…それって、プロポーズ?」

 名前はクスクスと笑えば、少し不機嫌そうなブン太が名前の方を振り返った。

「悪かったな…そういうムード、俺作れねぇし」
「ううん、ブン太らしい」
「…で、返事は」
「喜んで」

 名前がそういうと、ブン太は満足そうに笑った。そして名前に向かって手を差し伸ばす。それに少し驚きはしたものの、名前は照れくさそうに微笑んで、その手を取った。



***
(Title by 宇宙)
2012/01/04



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