具合が、悪くなった。生理日二日目の今日。お腹の痛みはMAXで二時間目の休み時間を利用して保健室に行った。保険の先生というのがこれまた小柄でふわふわした可愛らしい先生で、休ませて貰うことにした。カーテンが引かれた奥のベッドに横たわって、お腹の上にある湯たんぽを軽く叩いた。大分、下腹部の痛みはひいたと思うけどまだ辛い。
 はあ、こんなつもりじゃなかったんだけどな。最近、ストレスが溜まりっ放しだったのかもしれない。夏休みが明けてから友達と自然に離れて行って、でも話すしある程度は気を遣っていた。部活は新人戦に向けて忙しいのは当たり前のことで無理をしていたのかもしれない。

『あーあ…自分の体調管理もできない自分って…』

 マネージャー失格だなあ。と一人きりの保健室で呟いた。先生は今会議室に行ってて暫く戻って来ないって言ってたから一時間は一人きり。悲しい、というよりは寂しいかも、しれない。友達と離れていったことで、放課後と朝練以外に人と接することが減った。すると、扉が開く音が聞こえた。静かな保健室では耳は自然と音を拾ってしまったのだ。その足音は段々とこっちに近づいてきているのが分かる。誰だろ、先生…ではないな。と思って少し早まる心臓に手を添えた。そしてカーテンに手がかけられた所で「名前?」という声が聞こえた。

『ひ、かる…』

 声の主は私の声を拾ってか、躊躇いなくカーテンを引いた。隣のクラスの、財前光。テニス部の新部長で、今最も話すことが多い相手でもあった。光は私の横たわるベッドに腰掛けてもう一度カーテンをひいた。

『どしたの…』
「…お前が保健室に入って行くの、金太郎が見てたんや」
『あー…それで、光に言ったんだ』
「腹痛いんか?」

 それに一つ頷いて「生理痛」と呟けば「通りで」と素気ない返事が返ってきた。別に光はやましいことも普通に口に出したってあんまり気にしない奴だから、こういうことを口に出しても大丈夫だった。光は一度小さく溜息をついたあと静かに言った。

「無理してたんか」
『してたつもりはないよ』
「まあ、コートでの具合悪さは見受けられへんかった」
『大幅原因生理痛だって…大丈夫だよ』

 小さく笑って返せば「なら、ええわ」と深く腰掛けた。そしてぽすと私の頭に手を置く。

「無理すんなや」
『だから、してないってば…』
「部活の話やない。普段の話や」
『…、知ってたんだ』
「当たり前やろ。移動教室ん時も一人やったし、作り笑いもええ加減見飽きたわ」
『あはは、…でも、光の前では、作ってなかったよね…?』
「俺の前ではお前は無理してへんかったし、作ってもなかったで」
『そか…良かった』

 光の前で、そんなことしたくない。部長の負担なんか増やして溜まるか。光が部長になる時に、決めたんだ。絶対に光に負担なんか掛けさせない。そんなマネージャーにはならない、って。安心したら、なんだか目頭が熱くなってきた。

「…こんな時まで無理すんなや、ど阿呆」
『ん、っ…ありがと』

 つー、と溢れ出た涙は何のために流れたのだろう。光の前で泣くなんて思ってもみなかったなあ。出来るだけ、顔を見せないようにと両手で顔を覆った。嗚咽は、治まることを知らない。「名前」と光は名前を呼んだが、今はどうしていいか分からない。ただその後に「休んどけ」という声が降ってきて私の思考は完全に回らなくなってしまった。



(本当は理由があったのかもしれないけど、)
(そんなの今はどうだっていい)
(君が傍にいてくれたから、どうだっていい)

***
(Title by Aコース)
2011/09/13



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -