(また君が恋しくなる季節がきたよ)


 河原。彼岸花の大輪が咲く土手。この風景が彼女は大好きで、毎年この時期は毎日ココに現れては土手に座っていた。そして、また今日も彼女はココにいた。優しい風に髪をなびかせて、遠くの方を眺めている。そんな彼女の背後に影が現れた。

「今日も此処に居んのか、名前」
『銀時』

 現れたのは江戸じゃ有名な万屋「銀ちゃん」の店主だった。彼と彼女は昔からの古い付き合いでお互いのことは、大体よくわかっている。名前は銀時の方を振り向いて一度微笑むと、また視線を元に戻す。銀時はその名前の隣に腰を下ろした。

「よくもまあ、飽きねぇな。毎日毎日こんなとこ」
『あら、毎日毎日違う風景なんだよ。飽きるわけないよ』
「俺にはどれも同じように見えるがな」
『…いつもと変わらないな、って思う日常は、実は毎日違うものを映しているものなんだよ』

 そういって名前は風になびく髪を耳にかけた。銀時はその横顔を見て何一つ、昔と変わらない顔があることを確認する。昔より大人びた表情も哀愁の漂う雰囲気も、何かを湛えた瞳も。

『人や時代が変わるように、景色も一つ一つ違う。それはある意味風流なのかもね』
「…俺には難しいことはよくわかんねぇ」
『ふふっ。銀らしいなあ』
「つまりは馬鹿って言いてェのか?」
『誰もそんなこと言ってない。銀は妙な所で頭が働くからやんなっちゃう』
「おいおい名前さんよお、それは褒め言葉として貰って置くぜ」
『どうぞ』

 くすくす、と笑って名前は隣の彼岸花の花びらをそっと撫でた。その瞳に、どこか悲しさを映して。

「名前」
『ねぇ、銀。私より先に死んだら怒るからね』
「…そりゃ、こっちの台詞だ」
『それじゃあ、一緒に死ななきゃ駄目じゃない』
「それも、いいかもな」
『やだなあ。死ぬときまで銀と一緒だなんて』
「んだとぉ!?」
『……でも、それもいいかもしれないね。一人じゃ、きっと、寂しいから』

 そういった名前に銀時は堪らず手を伸ばした。そしてその繊細な髪に触れる。

「こんな話はやめにしようぜ」
『…うん』
「くだらない昔の思い出を、あんまり思い出してんじゃねぇ」
『…うん』
「寂しいなら、いつでも側にいてやっから。会いたいなら、いつでも会いに行ってやるから」

 ゆっくりと名前を引き寄せて自身の腕に閉じ込める。この季節になると、なぜだか昔のことを思い出す癖がある名前。それを分かっている銀時だからこそ、彼女の側にいてやるのだ。名前は小さく微笑んでその頭を銀時に預け瞳を閉じた。

『…ありがとう、銀時』
「どうってことねぇ」
『うん…。ありがと、大好き』
「ああ」

 低体温のその体を力強く抱きしめて風に揺られる花を銀時は見た。夕暮れは、もうそこまで近づいていた。



(じゃ、帰ろっか)
(家寄ってくか? 今夜鍋にすっから)
(ほんとう? それなら寄って行こうかな)
(どうせなら泊まって行けよ)

***
2011/09/11



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