…ちょっと待った。落ち着け、落ち着くんだ、自分。
 名前はもう何度も心の中でそれを繰り返していた。そうでもしないと自分がおかしくなってしまいそうな気がして。いや、もう目の前にいるのがおかしいものだからどうしようもないのだけれど。名前はもう一度目の前にいる人物を交互に見やり、そして頭を抱えた。

『あー…夢、じゃないんだよね。え、うん…どゆこと?』

 名前が戸惑いを隠せないのも、そのはず。一葉の所の使役神であるテン紅が二人いるからだ。普段の赤と、そして見慣れない白。彼らは二人で一人のはずなのだが、どうして二人別々の姿なんだろうか。

「あははっ。名前さん困ってますねー」
「だろうよ。いきなりで驚くのも無理はないだろうけどな」
『え、なに。双子だったとか言うわけ? 冗談よしてよ、本当にさあ』

 あああああ、と頭を抱えてその場に蹲る名前を見て赤は苦笑し、白は呆れた眼差しで見る。一番正常なのは名前であるが今大混乱中なのでどうにも冷静になれない。そんな冷静になれない中に、また一つ、爆弾が落ちることになる。

「おら、立て」
『うわっ…』

 白いテン紅が無理矢理名前を立たせると二人は向き合う形になる。そして、爆弾発言。

「名前、キスしろ」
『………はああああああ!!?』

 こいつら、正常じゃない。何をどうしたらこうなったんだ。名前の頭の中はさらに大混乱へと向かっている。

「ちょっと抜け駆けは止めて下さいよ」
「フン。早い者勝ちと言っただろう」
『ね、ちょ、ちょっと待ってよ。ほんと、冗談やめて…』
「冗談のつもりはないですよ、ねー」
「ああ。本気で言っている」

 そういって名前の両手は二人に絡められる。最早、逃げ場はどこにもない。名前は流石に顔を引き攣らせた。

「おい、キスしろ」「キスして下さい」

 ずい、と端正な顔を近づけられた瞬間、名前は悲鳴をあげた。そして目の前は真っ暗になった。

『――……んっ…あれ、ゆ、め…?』

 ぱちくり、と目を開いた名前は自身の布団から飛び起きて今の状況を確認する。そしてほっと胸を撫で下ろした後、名前は「夢オチか…」と多分真っ赤であろう顔を両手で覆ったのだった。



***
2011/09/10



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