あの人が変わったのは、君のおかげなんだよ。その一言を言う為に、私は彼の元へ向かう。

『鉄くん』
「あ、名前姉ちゃん!!」

 まだ十五歳。そんな君のおかげで、彼は感情を現す様になったから。にこりと微笑む君はまだ無邪気で、でもその中に強い闘志を秘めている。正義感の強い子だ、とは言わないけれどね。

「どうかしたの?」
『うん、ちょっとお礼を言いにね』
「お礼? 俺、姉ちゃんにお礼言われることした?」
『ホントに些細なことだよ』

 ふふっと笑う私に彼は小首を傾げて見せる。まだ愛らしい幼さが残っている。あの頃が私にもあったんだな、なんて。

『烝の友達になってくれて、ありがとう』
「へ?」
『鉄くんのおかげで、烝、大分変ったから』
「そ、そうかな」

 少し照れ気味に笑う鉄くんに微笑み返す。そう、君にとって大きいことじゃなくても私にとっては大きいことなの。歩さんが亡くなった時に、私は彼の側にさえいれなかったから。どうしていいか分からなかった私の代わりに、君が烝を救ってくれた。本当に感謝しきれないほど、感謝している。

「? 名前姉ちゃん?」
『ううん、何でもない』

 物言わぬ私を心配してか、鉄くんの呼びかけに私はもう一度笑った。すると、鉄くんの目つきが変わる。私はその視線の先を辿っていけば、そこには烝が立っていた。

「何しとんねん、土方さん待ってるで」
「やっべぇ、忘れてた!! じゃあな、名前姉ちゃん」
『頑張ってね』
「おう!!」

 そういってパタパタと烝の横を通り過ぎて行く鉄くん。その場に残された私達の間には、気まずい雰囲気が流れていた。というのも、烝とは歩さんが亡くなった以来、一切口をきいてなかったからだ。私が出過ぎた真似をしたのが、悪いんだけど。私はこの雰囲気に耐えきれずに、踵を返して立ち去ろうとした。

「待てや」

 烝の、僅かに震えた声が聞こえた。それが怖くて、振り返ることが出来なかった。そうして立ち止まっていれば、ざくという足音が聞こえて徐々に近づいてくるのが分かる。そして、真後ろで足音が止まった。私は何故か緊張感が芽生えて、息をするのも苦しかった。

「………名前」

 久しぶりに呼ばれた名前に、ほんの少しの安堵と不安が広がった。

「…すまんかった」
『…す、すむ?』

 震える彼の声音に、不安が増してゆっくりと振り返れば、烝は俯いていた。

「言いすぎたわ……ほんま、すまん」
『………』

 そっと彼に手を伸ばして頬に触れる。拒絶されることはなかった。烝は私の手の上に自分の骨ばった手を重ねてきた。

『烝…、烝が悪いわけじゃない。私も言いすぎたから…』
「…」
『馬鹿って言って、ごめんなさい……勝手に、死ねばいいなんて言ってっ、ごめんなさっ…!!』

 全て言い終わる前に、烝に頬に触れていた方の腕を掴んで引き寄せられる。驚いたのもつかの間、

「もう、止めにしようや」
『…なにを?』
「お互い、これ以上謝ったって拉致があかん。やめて、元通りが、ええ」

 耳元で囁くアナタの声がこんなにも愛おしいだなんて思っていなかった。ぎゅっと抱きしめられても、今は恥ずかしいなんて思わない。寧ろ、幸せすぎて泣きたくなった。

『うん…そうしよう』
「ホンマ、お前が喋ってへんと気持ち悪いわ」
『酷いね………烝』
「ん?」
『好き、大好き……ずっと、側にいてもいい…?』

 間をおかずに、返答が返ってくる。

「お前だけは、ずっと俺の側にいてろ」
『…うん』
「愛してる…名前」

 そういって烝の背に手を回せば、ふっと上で烝が笑った気がした。こんなに優しくなったんだね。今までの忍としての烝は、感情なんて一切無かった。いや、押し殺していたのかもしれない。だけど、今の烝は前の烝よりずっといい。素直だし、率直に何でも言うのは変わっていないけど、多分、これから笑ったり泣いたりすることがもっと増えるんだろう。この抱き合っていることを、あとで沖田さんに永倉さん達にバラされたことに気づくのは翌日だった。



(てか、なにあの餓鬼にお礼言っとんのやボケ)
(だ、だって…鉄くんがいなかったら烝、こんな風にならなかっ…痛っ)
(うっさい、黙っとれ)

***
2011/04/11


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