そう、いつも通りのスクールライフ。何にも変わりはない。その筈だったのだが……いつも通り屋上に来ればド派手な赤髪の少年が。壁に寄りかかるようにして雑誌を読んでいるのを、ナマエは入り口で見てしまった。今は授業中じゃないし、教室に戻ってもいいんだが…絶好のサボり日和だったから屋上に来たのだ。このまま休み時間通り越して午後の授業までサボりたい、けど…どうしようか。うーん、と顎に手を添えて色々思案するナマエだが、…仕方がない。戻ろうと思って踵を返した瞬間だった。

「おい」
『っ…!?』

 突然後ろから聞こえた声に、ナマエは表情が強張った。怖くて後ろも向けやしない。とんだ臆病者になったものだ…いや、いやいやいやいやだって男苦手なんだから仕方ないよね。うん、無理。後ろ振り向けません。ナマエはそう思って重く感じる空気の中、足を一歩前に踏み出す。すると先程より不機嫌極まりない声が飛んできた。

「おいっつってんだろ」
『………』

 空耳にしてほしかった。なんて思いながら、ゆっくりと後ろを振り向くナマエ。も、物凄く目つきが怖いんですけど…。彼は眉間に皺を寄せている。

「なんか用でもあんのか?」
『え、あ…や、その』
「日本語ちゃんと喋ろよ」
『さ、サボりに来ました………』

 そんなに目を険しくしなくてもいいじゃないですか。と言いたい気持ちをナマエはぐっと抑えて返答が帰って来るのを待つ。

「………そうか」
『え……』

 そ、れだけですか…?他に言う事はないんですか?と、尋ねるにも尋ねられずにいると、「好きにしろ」という声が聞こえた。下に向けていた視線を彼に戻せば、既に雑誌に視線を戻していた。そんな彼の邪魔にならないように扉を閉めて、指定地(屋上の隅)へと歩き出す。そしていつも通りにスカートに皺が出来ないように座ってフェンスに背を預ける。見上げた空に、いくつも存在する雲。ただ、ぼーっと雲の数を数え始める。
 いつもなら、文庫本とか音楽プレーヤーとか持ってくるんだけど、今日はそんな気分じゃなかった。ただこの美しい空を見ていたい…そう思ってサボりを口実に屋上に来たのだ。今日の天気は最高だな、と頬が緩んだ時だった。突然影が差したのだ。太陽に、ではない。ナマエにだ。その影っていうのは先程の赤髪ではなく…隈男ことクラスメイトのボリスだった。ナマエの顔を覗き込むようにして…不機嫌な表情をしていた。

『何か、用……?』
「コプチェフがお前のこと探してんだよ」
『……え? 今なんて…?』
「お前耳悪ィのか? だから、コプチェフが『いいいいや結構です!! コプ君には早退しましたって言っといて下さいっ!!』……」

 ボリスはそれに不思議そうな表情をした。コプチェフ君ことコプ君は、ショケイスキー君と同等に危ないから嫌、絶対嫌らしい。ていうか、ボリス君て…風紀委員だったような…。あれ、これってサボり危なくない…かな?とナマエが思案し始めた時だった。

「サボっている奴の言うことなんて聞けるかよ」
『わっ、ちょっ……!!』

 ぐいっと腕を引っ張られて、無理矢理立たせられるナマエ。腕が痛いなんて口が裂けても言えない…というか、男の子に腕掴まれたの初めてなんだけど。そのままコプチェフの元に向かうのだろう、引っ張られて屋上から連れて行かれそうになる。それに抵抗できずに困っていると、がっという音がした。え?と思う前に腕を握るボリスが体制を崩して前に倒れる。
 その反動を受けて、ナマエも前に倒れそうになる。やばっとぎゅっと目を瞑って覚悟を決める。だけど…痛いという衝撃ではなくて、柔らかい受け止められる衝撃だった。恐る恐る目を開けてみれば、コンクリートの地面とは結構離れていた。何で…?と視線を横に向ければ、顔面強打で倒れているボリス…の足元に視線を移せば引っ掛かっている足。その足の主…というのは先程の赤髪の少年だろうか。と思った時だった。

「チッ……てめぇの所為でうるさくて集中できねぇだろ」
『ッ!!』

 恐る恐る顔を上にあげてみれば、そこには不機嫌極まりない彼の顔。どうやら、ナマエは彼に受け止められて助かったみたいだ。

『ご、ごめんなさい…』

 そういって立ち上がれば、また舌打ちが…いや、本当にごめんなさい。と申し訳なく思っていると、ボリスが小さな唸り声を上げて起き上がった。なんか顔が物凄く痛そう……。と憐れんだ瞳をボリスに向けるナマエ。

「てんめっ…キレネンコォ…」
「お前の所為で台無しだ」

 火花を散らして今にも掴みかかりそうな二人にあたふたとするラナマエ。今のうちに逃げるという選択は、思いつかないらしい。そんな時、屋上の扉が乱暴に開いた。ナマエはそれに視線を向けて固まってしまった。それは、ナマエが嫌いなコプチェフが入ってきたからだ。火花を散らしていた二人も、そちらへと視線を向けた。キレネンコはギッと睨み、ボリスは小さく嘆息した。コプチェフはナマエを見つけるとにっこりと笑みを向ける。ナマエはそれにひっと小さな悲鳴を上げた。

「やっと見つけた」
『う………』
「さ、教室戻ろうか、ナマエ?」

 そういい若干黒い笑みを浮かべるコプチェフにナマエはさーと顔が青くなる。ボリスはその二人を交互に見やって成程な、と一人納得する。

『つ、謹んで遠慮させて頂きます…!!』
「えー? 遠慮はしなくていいよー? 反省文100枚で済ますから」
「普通20枚だろ」

 ボリスのツッコミにナマエは思いきり首を縦に振る。そんなナマエににこーと怖い笑みを向けるコプチェフ。

『大体、違うクラスなのに何で私ばっかり……』
「うんうん、そうだねー。ボリスがナマエを野放しにしているからかな」
『えぇ?』
「ねー、ボリス?」
「………」

 コプチェフの一言に眉間に皺が増えるボリス。ナマエは何でと言わんばかりに二人を交互に見る。

「はぁー…俺はコイツらの面倒で大変なんだよ」
「ハッ。そういう割には全然捕まらねえけどな」

 キレネンコを指さすボリスに彼は鼻で笑った。ナマエは「成程」と小さく頷いた時だった。

「ナマエー? 次音楽だよー?」
「まったくあの子は…」

 下の階からナマエの名を叫ぶナマエの友達。それに気づいたナマエは、小さな溜息をついて仕方ないと肩を落とす。

『コプ君……またあとで』
「はいはい、逃げないでね」
『…極力、努力します』

 ナマエは小さな笑みを向けて、屋上から出て行った。残された男子3人はその後ろ姿を見送るだけで誰も口を開こうとはしなかった。



***
2011/04/10



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