『寒いね…』
「ああ」
会話は長くは続かないことは、知っている。いつから、こうなったのか。そんなのは覚えていない。ただ、気づいたら遠くなっていて、近いのに遠かった距離は縮まりそうになかった。
『今日ね、三成君に言われたの』
「ああ」
『付き合って欲しい、だって』
「ああ」
返事は、同じものしか返って来ない。もうこの心に悲しみはない。キミが見つめる先には私などいないのだから。その虚ろな瞳で、何処を見ているのかな。私には、もう、知るすべなどないんだけれど。
『あのね、元親』
「…ああ」
繋いでいる右手が、物凄く冷たいんだよ。まるで醒めきった愛みたいだね。そうだよ、だって冷めてしまったら終わりなんだ。そんな終わりからの始まりなんて私は望んでいない。そして元に戻ることも。ねえ、キミもそうでしょう? 震える口を必死に動かして、言葉を紡いだ。
『別れよう』
「……ああ」
たった一言、されど一言。はっきり言うつもりなんてなかったこの言葉一つで終わってしまうなんて、なんだか悲しいのに、涙一つ出て来ないなんて。どうしちゃったんだろう、私は。昔の私の方が沢山笑えていて、沢山泣いていた。その度キミがいつも隣で笑っていてくれたんだよね。ありがとう、そしてサヨナラ。キミは私の一番だった。
『バイバイ、元親』
「ああ……」
私から離した手が無意識にキミを求める。だけど、その手を掴むことは二度と許されないから。ぎゅっと握り締めて必死にその衝動を抑えるの。ねえ、私はキミの瞳にどう映っていたのかな。面倒くさい奴だった? 可愛く見えていた? 今更すぎるけど、そんなことの一つも聞けなかったんだよね。ごめんね。本当にごめんね。私がもっとキミと沢山話していたらこうはならなかったかな。どんよりしたこんな空の下で、私はそれに似たモノを、瞳から流した。
(いまさら過ぎて、どうしようもないけれど)
***
2011/04/03