『……あっくん』

 路地裏の倒れた男たちと、そこに座って煙草の煙を燻らせる男を私は交互に見て、彼の名を呟いた。あっくんこと仁は私を一瞥した後、また上の方を見ながら煙草をふかす。

『まーた、喧嘩したの?』
「うっせぇな。俺の勝手だろ」
『うん、そうだね』

 男たちをひょいひょいと避けて、仁の側までくれば面倒そうに睨まれた。けど、もうそれに動じることもなくなった。だって、1年間もこの目を見てきたんだから。

『怪我、してない?』
「してねぇよ」
『あっくんの嘘つきー』

 そういって隣にしゃがみこんで、仁の手を取った。少し腫れあがった手の甲。痛々しいな、なんて思ってそっとその手を握った。

「…んだよ」
『嘘ついちゃ駄目だよ』
「……」
『それから、煙草も体に悪い』
「っせぇよ」

 いつもこう。素気ないというか、自己中っていうか…それが、男の子なんだろうけど。そう思っていると、仁の大きな掌が私の頭を撫でた。ちらっと視線を上げて仁を見た。

『あっくん?』
「あっくんじゃねぇよ、名前」
『仁…』
「おら、行くぞ」

 仁が立ちあがって、私の腕を掴んで立たせられた。こういう強引なところも変わらない。そう思って笑えば、「なんだよ」と上から声が降ってきた。それに「何でもない」と答えて、そっと腕を絡ませた。

『駅前のケーキ屋さん行こ』
「あ?」
『モンブラン、美味しいんだって。みっちゃんが言ってた』
「………行く」
『今日は私の奢りね』
「なんでお前の奢りなんだよ」

 物珍しそうな瞳で私を見てくる仁に、私はついつい笑ってしまった。この人、忘れっぽかったっけ?

『なんでって、今日は仁の誕生日だから』
「……そう、か」
『あははっ。やっぱ、忘れてたんだね』
「うっせー! ほら、行くぞ」
『はーい』

 ぎゅっと仁の腕を握れば、上から小さな笑い声が聞こえた…気がした。

「名前」
『ん? なに?』
「ありがとな」
『…どういたしましてっ』

 神様、仁のお母さん、仁を生んでくれてありがとう。私、とても幸せです。仁の隣に入れることが、私の幸せです。追加オプションとしては、もう少し短気じゃなくして欲しいです。って、これは私がどうにかするべきだよね。並んで駅前のケーキ屋に向かう私たちは、きっと世界中で一番幸せ!



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2011/04/02



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