(そして始まる彼女の苦難)


 やっばい、遅刻しそうだ。ちらりと腕時計を確認すれば既に針は8時半を示そうとしていた。HRギリギリだな、と思いながら息を切らして走るのは一人の小柄な少女。校門まであと少しと全速力で駆けて校門を通ろうとした時だった。
 ごちん、と何かにぶつかった。それによろけて少し後ろに下がれば、目の前には白いブレザーを着たかなり身長の高い男。名前は鼻を軽く押さえて男性を見上げれば、男はゆっくりと名前の方を見下ろした。切れ長の瞳に、黒の長髪、そして片手には胸倉を掴まれた男子生徒………。

『…え………』

 これはまずいんじゃないかと、顔を青くする名前。ところが彼女がまずいと思うのはこの光景と男ではなく時間だ。本当にもうギリギリだというのに何でこんな所に人が立っているんだ、とイライラしている。

『すいません、先急いでいるので通して貰えませんか?』
「……あァ?」
『ぶつかったのには謝ります。ごめんなさい。でも突っ立っているそっちだって悪いんですよ』

 身長差、65cm。圧倒的すぎて何も言えない。だが、名前に怯むという文字はないらしい。すると男は男子生徒を離して、名前の頭を掴んだ。

「………お前」
『はい、なんですか?』

 淡い微笑みを向ければ、男性はぴたっと押し黙った。名前は変だな、と思って校舎の時計を見れば、既に40分をさしていた。まずい、と顔色を変えて掴まれた頭をぶんぶんと横に振り校舎へと駆け出す。男はその様子を見て、隣で控えていた青年を一瞥する。

「おい、テスラ……あの女捕まえて来い」
「え…」
「早くしろッ!!」

 ダッとテスラと呼ばれた男は駆け出すと、あっという間に名前に追いつく名前はえ、と目を丸くした直後、腰に手を回され担がれ男の元へと走りだされる。

『わっ……!!』

 そして男の元まで連れ戻されると同時に本鈴が鳴り響き渡った。

『やばっ…ちょ、あの、おろして下さい!!』
「…テスラ、そいつ車に乗っけろ」
「はっ」
『え、………』

 名前はその言葉に固まって、驚いて言葉が出ない。そして後部座席に乗せられ、隣には先程の長髪長身男が乗った。青年が車を運転してどこかへと向かう。名前は我に返ると学校を見た。学校はどんどん遠ざかっていき、名前はえええと顔色を変えて隣の男を見た。

『あ、あの…』
「あァ? なんだ」
「ど、どこ行くんですかっ…てか、拉致ですか…?」

 オドオドと男に訊ねれば、一睨みされるだけ。うっと息をつめて膝の上で拳を作って俯く名前。それを見た男は、ふぅと息をついてぐいっと名前の腰に手を回して引き寄せた。それに名前はぎょっと目を見開いて男の顔を凝視した。

『なっ、なに、を……』
「何って、腰に手ェ回したんだろうが」
『じゃなくて、近いですって…!!』

 ほんのりと顔が赤い名前に、男は何やら思案気な表情に変わる。そして耳元に口を近づけた。

「近くて悪ィことはねェだろ」
『っー……!!』

 そう囁かれてぞわっと見の毛が逆立つ名前と、愉しんでいる男。

「慣れてねェみてぇだな」
『だ、れが…こんなの慣れるんですか!!』

 そういって、名前は右足で扉を思いっきり蹴って開けた。その脚力に車を運転していたテスラは驚いて急ブレーキをかけてしまった。反動でバランスを崩した名前は、男に腕を掴まれ引き寄せられて抱き締められる。

「っぶねェだろーがテスラァァ!!」
「も、申し訳御座いませんノイトラ様!!」
『……(固』

 完全に抱き寄せられて固まってしまっている名前。そんな名前を見て、男――ノイトラは首を傾げた。

「おい、お前大丈夫か?」
『だ、大丈夫…ですからっ、離して下さい!! それと降ります!!』

 そういって、離れようとした時だった。ぐいっと腰に手を回されて抱き締められ、顔がめちゃくちゃ先程より近くなってしまった。その間にテスラは扉を閉めて車を発車させた。名前は唖然としてジタバタともがくが、ノイトラが一言、

「もがくな、犯すぞ」

 名前は瞬時に動きを止めて、固まった。そして顔が近いのに耐えきれずに、顔を逸らせば熱い視線が注がれる。名前の視界の隅で、彼は口角を吊り上げて笑った。

「いい度胸だなァ、オイ」
『っ……もう、ヤダ』

 そういい、シートに顔を埋める名前。ノイトラは笑いその頭を撫でた。

「まァ、これから愉しもうぜ名前」
『えっ……?』



(こ、これからってどういう…)
(着いたぞ、学校)
(学校でか……ってあれ、ココもしかして…)
(さて、行くぞ)
(だから、腰に手を回さないで下さいっ!!)





***
2011/04/01



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